酒場にて
「ぷはぁーうめえなぁ。仕事の後の一杯は最高だぜぇ」
ダルディは木のジョッキに入ったエールを一気飲みした後、早くもお代わりを給仕のおばさんに頼んだ。そして急に周りを気にしたかと思うと、真剣な表情になる。
「ところでアルス。おめーはあの二人のことをどう思っている?」
あの二人……ソレイユとロラのことか。まさかダルディ、本気で狙っているのか?
「貴族だぞ? 夜這いはやめておけ」
「馬鹿! ちげーよ。あの二人、何か隠していると思わないのか? ドラゴンゾンビみたいな高位のアンデッドに襲われるなんて普通はありえねぇ。それに、迷宮都市を避けるような発言……。きな臭い」
「抱きしめた時は普通の香水の匂いだったが……」
ダルディはお代わりのエールを受け取ると、グイと飲んでからジョッキを置く。
「あの二人。迷宮伯に狙われてるんじゃないか?」
迷宮伯ベルント・ベッヒャー。迷宮都市グビサを支配する男だ。
「何故、迷宮伯に狙われる?」
「そんなことは分からねーよ! でも、気を付けるに越した事はない。アルスは迷宮に潜るつもりだろ? 迷宮伯に目をつけられたらそもそも都市にすら入れないぞ」
「そうなのか?」
「あたりめーだろ!? 迷宮都市は金のなる木なんだよ。ありとあらゆる国の工作員が狙っている。だから監視も厳しいんだ」
それは困るな。俺は迷宮で修行をして力を蓄えなければならない。いつか復活する魔王に備えて。それが、【勇者】への道。こんなところで躓いてはいられない。
「分かった。なるべくあの二人にはなるべく関わらないようにするよ」
「それが無難だな。おっ、きたきた。この店はこいつがうめーんだよ!」
給仕のおばさんが大皿を運んできた。ドン! っとテーブルに置かれたのは煮込まれた肉のようだ。
「なんの肉だ?」
「これは迷宮産オークのマスタード煮込みだよ! 野良のオークと違って臭みがないんだ。それに栄養満点。なぁ、おばちゃん」
「よく知ってるじゃない、お客さん! うちのオーク肉を食べれば筋肉モリモリになるわよ!?」
「はははっ! そりゃーいいな!!」
ダルディとおばさんが軽口を叩く。
「ほらっ! 遠慮せず食えよ!!」
「頂こう」
ネギの甘みとマスタードの酸味が絡み合い、オーク肉は舌の上でとろける。これは美味い。
「くぁぁ。やっぱりうめーな。エールが進むぜぇ!」
ダルディはまたエールのお代わりを頼む。
給仕のおばさんがまた、愛想を振る舞いていた。