二人の女
山盛りの荷物の脇に女が二人、身を寄せ合っている。先程ドラゴンゾンビに襲われていた貴族令嬢とその御付きの女中だ。
彼女達の乗っていた馬車は大破し、残念ながら御者や護衛は天に旅立った。
森のど真ん中に女二人を置いていくわけにはいかず、最寄りの街ベルデまでダルディの荷馬車で送ることになったのだ。
「アルスさん、大丈夫ですか?」
荷馬車の横を並走する俺を気遣い、貴族令嬢──ソレイユが声を掛けてきた。これは……完全に俺に惚れているな。
「気にするな。最近食べ過ぎだったから、いい運動になる。お前達も少し走ったらどうだ?」
年増の肉付きのいい女中──ロラがキッと睨んだ。俺がソレイユとばかり話しているので嫉妬しているらしい。なんとも、女とは厄介な生き物だ。俺にそんな気はないというのに。
「しかし、本当にベルデまででいいのかい? あの街で馬車を調達するのは苦労すると思うぜ? 迷宮都市までいった方が何かと便利だと思うがね」
ダルディが荷馬車を操りながら振り返り、尤もなことを言う。しかし二人は困った顔をした。世話になるのが心苦しいのだろう。
「遠慮なんてする必要はない。どうせ俺達は迷宮都市へ行くんだから」
「いえ……。迷宮都市はちょっと……」
俺の言葉に、ソレイユが気まずそうに答えた。
そうか……。二人はダルディを警戒しているのか……。ゴツイ髭面の男と何日も野宿するのは女性からすると怖いに違いない。ましてやソレイユは貴族の子女。不安で仕方がないのだろう。可哀想に。
「心配するな。俺が一生に寝てやるから」
──ゴンッ! と何かが飛んできて、顔の前で跳ね返る。
ロラが何かを俺に向かって投げたようだ。凄まじい嫉妬。
「そんなに怒るな。そうだ。名案がある。三人で一緒に寝よう。俺は見た目や年齢で差別はしない」
「なんたる無礼! お嬢様に謝りなさい!!」
ソレイユは顔を真っ赤にしている。そういえば日差しが強いな。長く日光を浴びて熱が籠ったのだろう。早急に対処が必要。確かこういう時は熱を逃した方がいい筈だ。
「ソレイユ。早く服を脱げ」
「このケダモノ!! もう許しませんよ!!」
ロラが荷物の中から短槍を取り出し、俺を突く。一応寸止めしているようで当たることはない。そのくせ、何度も何度も槍を突き出す。一体、何がしたいのやら。
「はぁ……はぁ……。この男、どうなっているの?」
「はははっ! やめときな。アルスには通じないぜ。まともに相手するだけ無駄だ」
ダルディが楽しそうにする。ソレイユは頬を赤らめたまま。ロラの機嫌はいつになっても戻らない。
荷馬車は街道を進む。