インターネットホラーショー
俺は三度の飯よりネットが好きな男。
PCから離れられなくなり、高校も休学している。
両親もすでに呆れ果て、何も言わなくなった。
俺は幸せだった。
何よりも全ての束縛から開放されたからだ。
高校に行っても、クラスメートにはシカトされるか虐められるかだ。
先生にまで味方してもらえない程だらしがないし、勉強もできない。
しかし、PCの前では違う。
俺は別人になる。
世界一頭のいい男に変身するのだ。
そして世界一強い男にも変身できる。
PCは俺の親友。
そして誰よりも身近な家族。
俺はPCなしでは生きられなくなっていた。
そんなある日、メールが来た。
耐久レースの参加依頼だった。
どれほど長い間PCの前にいられるかというレースだ。
そんな簡単な事でいいのかと、俺はすぐに参加を選び、返信した。
何日かして、レースの開催日の通知が来た。
明日からだと言う。
俺はいつでもPCの前にいるので、絶対に勝つ自信があった。
そしてレース当日。
俺はいつも通りPCの前にいた。
楽勝だ。
優勝賞金は百万円。
それが手に入れば、もっと高性能のPCを買い、もっと楽しめる。
俺は既に優勝後の事を思い描いていた。
レースは簡単。
レース主催のサイトにアクセスし、表示される文章を入力して行くだけだ。
こんな事はまさしく朝飯前。
全然負ける気がしない。
開始から十数時間が経過し、次々に脱落者が出始めた。
何しろ、トイレ休憩もNGなのだ。
俺はその対策として、大人用の紙オムツとおまるを用意していた。
準備は万全だ。
ほとんどの参加者達が脱落して行く中、俺は勝ち残った。
何としても優勝賞金を手に入れる。
俺は燃えた。
こんなに頑張ったのは生まれて始めてかも知れない。
サイトの参加者カウンターは既に「あと三名」になっていた。
もう少しだ。
もう少しで優勝だ。
俺はアンモニア臭と戦いながら、表示される文章を入力し続けた。
そして開始から七十二時間後。
遂に「あと一名」になった。
やった。やったぞ。俺が勝ち残ったんだ。
サイトに俺のハンドルネームが出て、優勝の文字が流れた。
「やった!」
俺はガッツポーズをして飛び跳ねた。
更にサイトには「優勝賞金を今すぐ取りに来て下さい」の文字が出た。
「今すぐ?」
俺はキョトンとした。
次の瞬間、PCのモニターから真っ黒な腕が伸び、俺をモニターの中に引きずり込んでしまった。
「それほどPCが好きなら、いっそこの中で暮らしなさい」
どこからかそんな声が聞こえた。
普通の人間なら、仰天してパニックになるだろう。
しかし俺は違った。
「喜んで」
PCの中で暮らす。
俺は至福の時を迎えた。
ああ、何て幸せなんだ。