69. 振り向かない
69. 振り向かない
サーシャが改まって私に聞きたいことって何かしら?少し沈黙が続いてからサーシャは口を開く。
「あの……アイリス様ってご結婚とかしてたんですか?」
……えっ?サーシャからのまさかの質問に私は動揺を隠せなかった。だって、そんな事聞かれるなんて思ってもいなかったし……。でもよく考えたらサーシャももう19歳だものね。そういう事に興味があってもおかしくはないか。
「してないわね。生涯独身だったわよ。それがどうかしたの?もしかして好きな人でもいるのかしら?」
「ちっ違います!もしそうならこの時代にもアイリス様の子孫の方がいらっしゃるのかなって……」
「あぁ……なるほどね。でも残念だけどいないわ。」
なんかそんな暇はなかったような気がするしね。あの時は新しい魔法やらその技術やらで世界を救った後の復興とかで忙しかったから。恋愛とかしている余裕は無かったはずよ。
まぁでも、今思うと少しくらい恋人の一人や二人作れば良かったかなとも思わないでもないけどね。私なら余裕で恋人くらい作れたし!美人だしナイスバディだし?
「そうなんですか?あのマーリン様の言っていたクロード様とかは?」
「違うわよ!彼とはそんな関係じゃないわ。確かに強さには憧れていたけどね。それに彼は私の事を女として見てなかったと思うし……」
私は苦笑いを浮かべながらそう答えた。本当にあれは無自覚なのかしら?よくわからない人だったなぁ〜。私が彼に抱いている感情が何なのか自分でもわからなかったし、それを本人に伝える気もなかったしね。
「ふーん。そうなんですね。じゃあ、この話はおしまいです!」
「そっ、そう?聞きたかったのはそれだけかしら?」
「違いますよ!……私……少し迷っているんです」
「迷っている?」
私がそう言うとサーシャは真剣な眼差しでこう言った。
「はい。私は本当に世界を救いたいのかって。自信がないんです……」
「それはどういう意味?」
「私は魔物の戦乱に巻き込まれ、すべてを失いました。だから私と同じような境遇の人を出したくない。そう思っているのに……未だに魔物は怖いんです。ましてや魔族の六魔将と戦う。そうなった時、足が震えて動けなくなるかもしれない。私は誰も守れない。それを考えると怖くて……」
「なるほどね……」
私はサーシャの話を聞いて納得した。彼女は優しすぎるのだ。自分が傷つくよりも誰かを傷つけてしまう方が辛いというタイプなのだ。
「サーシャ。あなたは何も間違っていないわよ。魔物が怖くない人なんていないわ。私だってリズだって、それこそマーリンだって。でもね一つだけ言えることはあるわ。」
「なんですか?」
「かつて英雄と呼ばれた私たちだって、すべての人を守ることなんて出来なかった。旅の中では、もちろん目の前で犠牲になった人もいるわ……それこそ大切な人も。その度に心に誓ったわ。必ず世界を救うと」
「アイリス様……」
「私たちは前を向いて歩んできた。決して後ろを振り向かず、ひたすら前に進んできた。そして今の平和があるの。だからあなたも恐れずに歩きなさい。どんな困難が待ち受けていてもきっと乗り越えられるから。」
「……はい!ありがとうございます!やっぱりアイリス様に話してよかったです!なんだかすっきりしました!」
「ふふっ、元気が出たみたいで良かったわ。」
それからしばらく二人で雑談をして過ごした。サーシャはずっと笑顔でとても楽しそうだった。こういう時間もいいものよね。私にも、またこんな風に笑える日が来るなんて思いもしなかったわ……。本当にサーシャは不思議な子よね。
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