プロローグ
この世界では100年に一度魔王が生まれ、100年に一度勇者が生まれる。
そうして命は繰り返し4つの大地を巡る。
それが、この世界の理。
「くうーっ!ついに到着しましたよっ!勇者の町、プリマスです!」
「ヌオーッ賑わってるナッ!」
山岳地帯の小さな田舎町からやって来た一人のアイテム士とその相棒は、勇者生誕100周年の祝祭で賑わう港町プリマスの光景を見て歓喜した。緑の美しい丘に囲まれた、潮の香り漂う町は活気で溢れている。荷物を積んだ馬車が行き交い、呼び込みを行う店が並ぶ。
「そりゃそうですよっ!なんせ今年は前回の勇者が誕生して100年目。
ここを訪れるのにこんな最高のタイミングはありませんから」
アイテム士の少年、ラキは興奮ぎみに言う。その背中に背負う驚くほど大きなリュックは所々あて布がされており、はち切れそうなほどの荷物でいっぱいだ。
リュックとラキの両肩の上をくるくると動き回っているのは精霊のマル―。
茶色いフェレットのような体に、二本の尻尾と、実は申し訳程度の角が額に生えている。
「さて、この看板によると勇者の像はこっちのようですね」
ラキは立ち止まって看板を確認する。緑髪に乗せた不格好なゴーグルをくいっと少々持ち上げ、看板の示す大通りを見やる。と言っても、彼の前髪は伸びすぎてその瞳は殆ど隠れてしまっているのだが。
「ほえー・・・100年前の勇者は随分と都会で生まれたんだナ」
マル―は少し圧倒されたようにラキの首元に隠れて様子を伺いながらも、好奇心には勝てず、キョロキョロと目を動かした。
大通りには明るい色の壁に暗褐色の木枠が美しい家々が建ち並び、様々な店も賑わっていた
その通りを人々が世話しなく行き交うが、多くがラキ達のように旅人らしき格好をしていた。
「100年前はとても小さな漁港だったようですよ。
それが今では勇者の町として沢山の人が訪れる有名な観光地ですっ」
「あんまり興奮するなよっ肩が揺れるだロッ」
「それは無理な話ですっ。ようやく僕の長年の夢がここから始まるのですから・・・」
そう言うと鼻息荒く、ラキは大通りに足を一歩進める。噛み締めるような一歩だ。
「ずっと憧れでした。16歳の誕生日に旅に出て、超王道勇者パーティを結成して魔王を倒す!
そして・・・」
心の高鳴りそのままにくるりと回転しビシッと空を指すと、ありったけ叫んだ。
「そしてっ 僕はその伝説を語り継ぐ、名も無き著者になるんですっ!!」
「ヌオオッ!!」
マル―もその肩の上でビシッとポーズを決めた。
行き交う人々や店の店員は、突然叫び出したラキ達に驚いて振り向いている。
ドンッ
直後、背後を歩いてきた青い服の男がラキの大きなリュックにぶつかってしまった。
興奮して道のど真ん中を占領していた事に気づいたラキ達はすみませんと謝り、道の端に寄る。
先ほどの勢いはどこへやら、出来るだけ小さくなった。
青い服の男は睨みながら黙って通り過ぎていく。
ほっと息をついて、
「ま、まずは勇者を探し出して、旅にお供させて頂かないと・・・」
ラキは小声でマル―にそう話し、マル―はうんうんと頷いてみせた。
彼らは大通りをいそいそと歩き出した。
今日ここから、彼らの冒険は始まる。