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お肉を獲って食べることにしよう

 奴隷商による襲撃から一夜明けて、翌日。

 

 悲しみに暮れていた子供たちも、なんとか現実と向き合っていかなければならないと少しずつ心に整理をつけられてきたようだった。


「私が思っていたより立ち直りが早かったな」


「はい、そうですね」


 私の隣に立ったククイが頷いた。その目は少し赤く腫れている。昨日はだいぶ泣いたからね、私の服を涙と鼻水でべちょべちょにする程度には。


「私たちみたいにジャングルで暮らしていると、親兄弟が突然モンスターに襲われて死んでしまうということはよくあることなんです。だから、みんなある程度の覚悟は日常的にできていたんだと思います」


「そうなんだね」


 その説明に納得した。植物も育った環境によって再生速度や生長速度が変わるから、それと同じような仕組みってわけだ。まあなんにせよ、みんなが動けるようになったのであればそれは望ましいこと。


「今日は奴隷商たちに荒らされていた畑を元通りにしようか」


 私は子供たちにくわを持たせて畑へと向かう。そこではいくつかの野菜が踏みつぶされていたので、まずはダメになってしまったものを含めて収穫、その後に畑を耕すという作業をするつもりだった。

 

 しかし野菜の収穫作業の途中、ぐぎゅるるる~~~という音がいくつも重なり始めた辺りで子供たちが動けなくなってきて、作業を中断せざるを得なくなってしまう。


「みんな、もしかしてお腹が空いているの?」


「ごめんなさい、みんな昨日からなにも食べていないみたいで……。村の備蓄には火をつけられてしまったので、食べるものも無くて……」


 ククイの言葉に子供たちがコクコクと頷いた。

 

「たったの1日でか。人間ってコスパ悪いんだね」


「エルフは違うんですか?」


「私たちは水さえあれば1週間くらいはぜんぜん平気。でも困ったな、これじゃ作業にならないや」


「本当にごめんなさい、足を引っ張ってしまって」


 別に責めるつもりで言ったわけじゃなかったんだけど、しかしククイも子供たちもしゅんとして俯いてしまう。

 

 あー、私ってこういうとき言葉選びに失敗しちゃうんだよな、いつも。


「分かったよ。じゃあちょっと待っていて」


 私は地面にマナを込めた種を蒔く。するとまたたく間に現れたのはムキムキ大豆くんたちと、私の身体の2倍ほどの大きなサボテンに台車を合体させたような見た目をした植物、【サボテンライダー】。私はサボくんと呼んでいる。


 サボくんはその台車型の足で自由に移動ができて、普段は太陽の光をもとめて平原をさまよっている植物である。食料は水と太陽の光だけど、自分のことを食べようとして近づいてくるモンスターたちには針を飛ばして攻撃する強い子だ。


「ムキムキ大豆くん、サボくん。お肉を獲ってきてくれる?」


〔マメマメッ!〕


〔サボサボッ!〕


 私はムキムキ大豆くんにナイフを持たせると、彼らをジャングルへと送り出した。私が火を準備して待って10分後、すぐに彼らは戻ってきた。


〔サボサボッ!〕


 帰って来たサボくんの台車には、綺麗に捌かれたお肉が載っていた。大きな赤身のブロック肉だ。余裕で人数分以上はある。


「うわぁ~!」


 それを見て、一瞬にして子供たちの目が輝きに満ちた。生肉を前にして、まるでそれがごちそうだとでも言うかのような反応だ。

 

「ただのお肉だけど……みんなヨダレを垂らしてるね?」


「わ、私たち、こんなしっかりとしたお肉は食べたことが無かったので……! 普段はヘビ肉や鳥の肉くらいなんです」


 そう答えてくれたククイの目もまた、お肉にくぎ付けだ。口からヨダレも垂らしている。その年相応の子供らしい反応に、私はクスリと笑ってしまう。

 

 ……うん? あれ、いまもしかして私、和んだ……?

 

 これまで人間なんていう種族に、例え商売上などでどれだけ付き合いがあったとしても、小動物以上の親しみを覚えたことはなかったのに。会って1日やそこらのククイの表情に心が緩むなんて、おかしいな。

 

「……まあ、いま考えるようなことでもないか。サッサと肉を焼いて食べられるようにしちゃおう」


 私は各小屋で普段使われていた鉄製の調理器具でお肉を焼き、それを子供に配って回る。


「お、美味しい!」

「うま~!」

「じゅーし~!」


 みんな満足そうに食べているようだ。うん、よかったよかった。ククイもまた口いっぱいにお肉を頬張っている。


「美味しいかい?」


「はい、とっても! こんな美味しいお肉を振舞ってくださるなんて……女神……」


「いや、私はハーフエルフだけど……」


 残念ながら女神も知り合いには居ない。というか見たことも無い。


「ところでラナテュールさん、これってなんのお肉なんでしょうか?」


「なんだろうね? サボくん、これってなんのお肉なの?」


〔サボッ!〕


 サボくんは台車の後ろに載せていた、このお肉からはぎ取ったらしい頭付きの毛皮を私たちに見せてくる。その頭には大きな角2本のが生えており、牛のような顔つきをしていた。


「ワ、ワイハータウロス……っ⁉」


 それを見たククイが驚きの声を上げた。他の子供たちも彼女と同じくびっくりしたような顔をして固まっている。

 

 なに? ワイハータウロス……?


「こ、この【ワイハー島ジャングルの王】とも呼ばれるほどの最強のモンスターです。まさか、そんなモンスターまで倒してしまうなんて……すごいです、ラナテュールさん……っ」


「いや、倒したのは私じゃなくてサボくんで……」


「慈悲深く、かつジャングル最強……やっぱりラナテュールさんはこのジャングルに現れた救済の女神なんですね……!」


 私の話を聞かずに思い込みが激しいククイと、その言葉に釣られた子供たちのキラキラと称賛に満ちあふれた視線が私に集中してくる。いや、本当に私自体は大したことないんだけどなぁ……。あといま知ったけどこの島ってワイハー島って名前なんだね。


 やり辛い空気の中、私もそのワイハータウロスとやらのお肉をかじってみる。これがまあなんとも、けっこう美味しかった。


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるのっ……!」


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