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また海に来たよ

 ザザーン、と波が打ち寄せる白浜。押し寄せる潮風。


「あー、やっぱり海っていいなぁ……」


 エルフの里から帰って来て3日。私は再びこのジャングルを抜けた先にある海へとやってきていた。

 

「ラナテュールさん、なにか羽織らなくて大丈夫ですか?」


 隣に立ったククイが心配そうにこちらを見てくる。


「この前は日焼けで真っ赤になっていたじゃないですか」


「ふふん。抜かりはないよ。また海に来る日のことを考えて【日焼け止め】を作っておいたからね!」


 じゃじゃーんと、私はガラス瓶に入れた白濁色のその塗り薬をククイへと見せる。


「道の工事をみんなにやってもらっている間、リノンと2人でせっせとこしらえていたんだよ。私もリノンも他のみんなと比べたら肌が白くて焼けやすいからね。必須アイテムになるだろうって思ってさ」


「そ、そんなものを作っていたんですね……どうりで今日はなんだかラナテュールさんもリノンちゃんもテカテカしてると思いました」


「まあね」


 ククイの言う通り、私もリノンも、元となった薬草の成分のせいかなんなのかは知らないけど全身に油を塗ったみたいになっている。薬草のキツイ臭いはだいぶ抜けたんだけどね。


「ラナテュール様ぁ……本当にこんなの塗る必要あったんですか?」


「絶対に必要だよ、リノン。地獄を見たくなければね」


「うぅ……なんかすごくヌメヌメしててちょっと気持ち悪いです……あとやっぱり私にはまだちょっとニオイがキツイです……」


 ただ、リノンはだいぶがげんなりとした様子だった。竜人種は嗅覚がエルフよりも優れてるのかもしれない。

 

 でもあの盛大な日焼けの経験をした私に言わせれば、多少の気持ち悪さは我慢してでも日焼け止めは絶対に塗るべきだと確信を持って言える。それほどまでに辛かったもの。


 さて、もう誰もが分かる通り私は1人で海へ来たわけではない。この前いっしょに来たククイと他の子供たち、それに加えて新たにリノンが来ている。

 

 さらにさらに、それだけじゃない。

 

「──ラ、ラーナ……? このミズギ? という服……ちょっと肌の露出が激しすぎるんじゃないかしらっ……!」


 私と同じ真っ白な肌を陽の元にさらしたもう1人のエルフ、アウロラが身体を隠すようにしながらコソコソと私の元へやってきた。

 

「ラーナもそんな……惜しげもなく肌を見せて! なんて眼福……じゃなくて、はしたない!」


「だって別に誰かに見られて減るものでもないし、郷に入っては郷に従えって言うし。まあ私も最初はちょっと恥ずかしかったけど、意外とすぐに慣れるものさ」


「え、えぇ……? そういうものかしら……」


 エルフの里からこのジャングルに私が帰ると決まったとき、アウロラが出した条件の1つがこれだった。つまり、私がいま住んでいる場所のことを知りたいということ。

 

『ラーナの生活に合っていないと感じたら、腕ずくでも連れて帰るから!』


 とのことだった。まあそんなわけで、とりあえず一番楽しいであろうこの海に連れてきたというわけだ。

 

「ほら、アウロラ。いつまでもそんなモジモジしてたら海を楽しめないよ?」


「う、うぅ……分かったわよ……」 


 納得しかねるような顔をしたものの、アウロラは身体を隠すのをやめて立つ。


「……おお?」


 スラリとした体格の中で、しっかりと出ているところは出ている。女性の象徴のような身体のラインが浮かび上がった。

 

 あれ? アウロラってこんなにスタイルよかったの……?


「ラーナ、そんなにまじまじと見られるとさすがに恥ずかしいわ……」


「……うーんとね、もうちょっとそのままで待ってて?」


 私はアウロラをそこに立たせたまま、ククイとリノンを引っ張って連れてくる。


「ラナテュールさん?」


「ラナテュール様?」


 首を傾げる2人をアウロラの隣に立たせる。

 

 ……違和感がない。みんなS字ラインがくっきりとしている。胸とお尻がこう……ボンッてなってて、お腹がキュッとなってる感じ。

 

「……」


 自分の身体を見下ろす。S? いやI字。すとーんと引っかかりもなにもなく地面まで直線が続くボディライン。


「おかしいな……?」


 私、これでも300年近く生きてるんだけどな? アウロラはともかくとして、12、3歳のククイとリノンにまで負けてるってやっぱり不自然すぎないか?

 

「大丈夫よラーナ。私はそんな小っちゃ可愛いラーナのことが好きよ」


「うるさいよ」


 私の不満に気づいたアウロラのフォロー(あるいは追い打ち?)のひと言にそっぽを向く。ときに優しい言葉は相手を傷つけるものなのだよ。


「もういいよ。今日はせっかく海に来たんだから、泳がないと」


「ラーナが気にし始めたのが先じゃない……」


「むっ。うるさいよ」


 まあもう身体がどうのこうのなんて話はこの広大な海の前ではどうだっていいじゃないか。ザブザブと海に入る。冷た気持ちいい。

 

 すると、子供たちが集まってきた。


「ラナねえちゃん、またアレやってほしいー」


「僕も! 僕もやってー!」


「私もー!」


 グイグイと水着を引っ張ってくる。いや引っ張るな、取れる。

 

「ていうかアレってなに?」


「ピンキーちゃんで投げるやつー」


「あぁ、あれか」


 いったん陸地に戻り、ジャングルからピンキーちゃんを数匹呼ぶ。

 

 投げるやつっていうのはアレだ。ピンキーちゃんのツルを使って海に向かって子供たちを飛ばすやつだ。


〔ピギィッ!〕


「ギャーっ!」


 やれやれ、いったいなにがそんなに楽しいんだか……。子供たちは何度も海に飛ばされて叫んで水しぶきを上げて落ち、そうして帰って来てまた飛ばされてと繰り返している。


「ホント、変なの」


「ラーナ……」


「ん? どうかした、アウロラ?」


「ううん、ただ……そんな顔するの珍しいなって」


 そんな顔? 顔をグニグニと揉む。私変な顔してたかな……?


「いえ、いいの。ちょっとだけ分かったわ……。この子供たちはみんな、あなたのことが大好きなのね」


「うーん、そうなのかな?」


「「もちろんです!」」


 後ろで聞いていたらしいククイとリノンがハモって答えた。

 

「2人によると、そうらしいよ」


「ふふっ、そうみたいね……。そしてラーナ、あなたもそれを受け入れて、心地良いと思っているのね」


「うん。そうだね。それはそうだと思う。最初は1人で暮らしていこうかなって思っていたんだけど、いまはこれはこれでけっこういいかなって思い始めているよ」


「そっか……」


 アウロラは優しげに、私に微笑んだ。

 

「分かったわ。ラーナ、あなたはあなたの居場所を見つけられたのね」


「私の……居場所?」


「ええ。こんなに暖かなラーナ、初めて見たもの」


「……? 気温が高いからかなぁ?」


「……まったく。自分じゃ分かってないのね」


 アウロラは呆れたようにため息を吐いた。


「あーあ、嫉妬しちゃう。私もこっちに移り住もうかしら」


「そんなことしたらエルフの里が本格的に潰れちゃうよ……?」


「ふふっ、冗談よ。でもこれからはたびたびこっちに来るからね!」


「別にいいけど……」


「決まりね! じゃあ、そうと決まればさっそく転送術式の準備を……」


 アウロラは言いかけて、アゴに手をやった。


「そういえばこの場所──ラーナの作ったこの国の名前ってなんていうの? 転送元と転送先を繋げるために正式名称が必要なんだけど」


「……えーと」


 どうしよう、名前。そうか……国には名前があるのか……。


「まさか、決めてなかったの……?」


「だって別に国同士の付き合いとかあったわけじゃないし……必要なかったから……」


「はぁ。ホントに建国なんてして大丈夫だったの? ラーナは」


「まあなるようになるよ。国の名前は、そうだなぁ……」


 私は海ではしゃぐククイやリノン、子供たちを見て──決める。


「──【グロウス】にする。これからみんな、国も、子供たちも、そして私も、スクスクと生長していけるようにと願ってね」


 グロウス、いいんじゃないかな。語感的にも。あとでみんなに教えておかないとだ。


「いい名前ね」


「そうでしょう!」


 えっへんと胸を張る。


 私たちの国、グロウス。


 この麗しのジャングルで、私は、私たちは、ノビノビとした日々を送るのだった。




~ FIN ~

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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


なにとぞ、よろしくお願いいたします。




※2023/06/29 一部変えております。


続きが書けそうにないため、この部分をもって完結とさせていただきます。

ご愛読ありがとうございました!


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[一言] 私もピンキーちゃんにぶん投げられる遊びがしたいです!(切実 子供にかえって遊びたい!
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