お返しはなにがいいかって言われても
私がこの村を訪れて約3週間が経った頃。畑も順調に機能してきて、子供たちも自分たちだけの生活に慣れてきたようだった。
私もまたこの村でやっておくべきことはなんとか果たせたと思う。目の前の奇妙な形をした木を眺め、ちょっとした達成感に浸っていると、
「ラナテュールさん、前々から気になっていたんですけどこの木はなんなのでしょう?」
いつの間にかククイが隣にやって来て訊いてくる。
「とても不思議な形をしていますよね。カブの実みたいに、木の根っこの方がずんぐりとしていて……」
「そうだね。これはバレラという木なんだ」
「バレラ、ですか」
「うん。この下の根っこ近くの幹のところがずんぐりと丸くなっているのはね、そこにマナを溜め込んでいるからなんだ。そしてそれを木のてっぺんから、モンスターが嫌がる性質のマナに変えて辺りに放出している」
「へぇ~! すごい木なんですね! あ、ということはこの村の周りにこれと同じ木がいくつも植えてあるのって……」
「そう。この村にモンスターが近づかなくなるようにするためだよ。ちょっとした結界さ」
このジャングルには人を襲えてしまうようなモンスターがたくさんいるということは前に読んだ本でも知っていたし、ここに転送させられてきてからのこの3週間でも実感することがたびたびあった。子供たちの面倒を見る合間にジャングルをいろいろと散歩してみたけれど、いろんな木々にモンスターのものらしき大きな爪痕があったし、大きな足跡や大きなフンもあったのだ。
この村のザルな安全対策をそのままにしたんじゃ、いくら生きるための知識を授けたところでいずれモンスターに襲われて死んでしまう。それはちょっともったいない。
「ラナテュールさん……」
ククイは瞳を涙でウルウルとさせながら、私の手を勢いよく両手で包み込んできた。
「私たちを奴隷商から助け、家の修理も手伝ってもらい、さらには畑の作り方も教えてもらって、そのうえ村の安全面にまで気を配ってくださるなんて……っ! まさに女神! 本当に本当にありがとうございますっ! これだけの恩、私の一生をかけても返しきれるかは分かりませんが、それでも私は一生ラナテュールさんに尽くして参りますっ!」
「い、いやいいって別に」
「いいえ、よくありませんっ! 私の気が済みませんっ!」
「でも私、別にしてもらいたいこともないんだけどな……。というか具体的になにをしてくれようとしているのさ」
「そ、そうですね……」
ククイは少し考えてから、少し照れたようにして伏し目がちに、チラチラと私を見てくる。
「これはあくまでも例え、本当に例えでなのですが」
「うん。例えね?」
「はい。例えです。例えばの話──わ、私がラナテュールさんの【妻】になる、なんていうのはどうでしょうか……」
「…………へ?」
聞き間違いだろうか。妻……? いま、妻って言った?
「ほら、その……神様への供物として乙女を差し出したりすることってあるじゃないですか? 私もいちおう、高貴ではありませんが綺麗な身の上ではありますから、そういうのもありか無しかで言えば……ありかな、って……」
「いや、無しでしょ」
即答すると、「え~っ!」とククイが残念そうに顔を歪める。なにが残念だというのだろう? まさかそんなに供物にされたかったのだろうか?
「……分かりました。ちょっと欲張りすぎたのかもしれませんね……っ!」
ククイはむむむっとしばらく考え込むと、
「それでは従者です! 従者とかならどうでしょうかっ?」
「従者、ね……」
「どんな小さなことでもなんでも申し付けてください。なんでもしますよ! 朝日が昇ると同時に起こしたり、毎朝お手製のスープを用意したり、髪を結ったり、お着替えをさせたり、身体を拭いたり、あとは添い寝とかっ!」
「もはやお母さんだね。そして私がまるっきり子供扱いなのはなんかおかしくない?」
私は割と寝起きはいいよ? 料理は苦手だけど……爆発するし。
「まあ、でもあいにくだけど従者は要らないかな」
「そ、そうですか……じゃあどうしようかな……」
ククイが再び腕を組んで悩み始めた。
ここまでして私にお礼をしたいと思ってもらえるのは嬉しい。けど……これだとちょっと言い出しにくいな。でも、いつかは言わなきゃいけないことだから仕方ない。
「あのね、ククイ。私そろそろこの村を出て行こうと思っているんだ」
「えっ……」
私のその言葉にククイが息を呑み、凍り付いたようにその動きを止めた。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるのっ……!」
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