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グリーンスクール - 初恋  作者: 辻澤 あきら
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初恋-1


                   初恋


 某月某日―――晴。


 由理子は、母真由美に言われて新聞を取りに玄関に出た。眩い陽射しが、ドアを開けると由理子の目に飛び込んできて、一瞬目を瞑ってしまった。今日は暑くなりそうだと思いながら、つっかけで門まで行き、新聞を郵便受けから取り出した。そして戻ろうとしたとき、ふと、門の下に靴が見えた。何だろうと引き返して見ると、赤いラインの入った白い運動靴が門の下からはみ出していた。誰かの落とし物だろうかと思いながら覗き込むと、その靴には、白い脚がつながっていた。由理子は一瞬怯み、慌てて反対側の門を開けると、そこにはひとりの少女がザックを枕にして眠っていた。


 少女は、元気良くご飯を平らげると、大きな声でごちそうさまと言った。その姿は、まるで自分がこの家の子であるかのような様子で、由理子も真由美も、直人も直樹も、ただ呆然と見ているしかなかった。少女はニコニコとしながら、お茶をすすり、ふと周りの様子が静かなのに気づいた。

「どうしたの?」

 少女に言われて、はっと真由美は我に返り、取り繕うように、何でもないわよ、と答えた。由理子もそれに合わせて頷いた。少女はそれを見て微笑むと、またお茶をすすった。

「オレ、行ってくるよ」

そう言って直樹が立ち上がると、直人も、

「僕も、もう行くよ」と言って直樹を追うように立ち上がった。慌ただしく出掛けた二人を呆れるように少女は見送った。そんな少女の様子をじっと観察していた由理子の視線を感じて少女は振り返った。

「ねぇ、今日って、日曜よね」

「そうよ」

不思議そうに問い掛ける少女に由理子は答えた。

「どこへ行ったの?制服まで着て」

「学校。クラブの練習よ、二人とも」

「へぇ、何のクラブなの?」

「野球部。二人とも」

「へぇ、そうなんだぁ」

「お兄ちゃんは、高校生だけどね」

「高校球児ね」

あどけない笑顔で少女は言った。そんな様子を見計らって、真由美は由理子を促した。由理子はそれに応えるように、少女に問い掛けた。

「ね、あなた、名前は?」

少女はニコニコしたまま、ミキ、と答えた。

「ミキちゃんね。苗字は?」

「内緒」

ミキはニコニコと微笑みながら答えた。

「どうして?」

「だって、そんなこと言ったら、警察に連絡されて連れ戻されちゃう」

「やっぱり、家出?」

「うん」

大きくミキは頷いた。真由美と由理子は顔を見合わせた。

「でも、ただの家出じゃないの」

その言葉に、二人は視線をミキに戻した。

「ただの家出じゃないってどういうこと?」

「話したら、警察に言わないでくれる?」

しおらしくミキは二人の様子を伺っていた。由理子が母の顔を見ると、真由美はちょっとウインクして見せて、由理子に耳打ちした。由理子は驚きながら自分を指さすと、真由美は大きく頷いて由理子の背を軽く叩いた。由理子は困った表情を見せたが、ミキが視線を向けていることに気づくと、ニッコリと微笑み、

「天気がいいから、外でお話しましょうか」と言うと、

「うん」

ミキは大きく頷き、由理子について庭に出た。



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