第4話 打倒ドラマタ!!資金集めはギルドから?邪竜ファントムとの死闘 後編
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ドカン、ドカン、ドカン。
霧の山の山頂付近では、爆発音がひっきりなしに鳴り響く。
その渦中にいる人間が二人。
仲良く並走していた。
「ちょっ。ちょっと!ロシュ、こっち寄らないでまじで危ないから」
赤いローブをはためかせながら、遮二無二走る栗色の長い髪の美少女、アテナ。
「ば、馬鹿。どう見ても無理だろ。空から翼の風圧と火炎放射がひっきりなしに来てるんだぞ。これは、反撃に出れないよ!」
金髪碧眼の美少年、ロシュとアテナは、近寄りたくなくても近寄っていた。頂上付近は狭く。何よりも邪竜ファントムの火を吹くスピードは早く、範囲が広すぎるので、絨毯爆撃のようになっており、逃げ場所がまったくなかった。結局、ひっついて一緒に走るしかなかった。
「ああ。もう。ロシュが引きつけてくれないと、私も魔法が使えないじゃない!!」
アテナが叫ぶ。栗色の長い髪が少し邪竜の火でチリチリに焦げているように見えた。
「魔法って、来るときにそういえばアテナが言ってたね。使えれば、なんとかなるもんなの?」
ロシュは、期待を込めて聴いてみた。
「トドメは無理よ。動きなら止められると思う。トドメはロシュ、あなたしかできないわ」
トドメはやはり自分なのかと、少しげんなりはしたが、動きさえ止められるなら、必殺の一撃を、放って、勝てるかもしれないとロシュは思った
「じゃあ、それ。どうやったら使えるの?」
「一回はファントムの火炎放射を無力化してちょうだい。そしたら、発動できるから、お願いね」
アテナはお人形のように、にっこり笑った。
これは、絶対しろって言う有無を言わせない命令のような微笑みだと、ロシュはこの旅を通して学習した。
無茶を、言いやがる。
しかし、しょうがないので、ロシュは全力疾走で逃げていたのをやめ、踵を返す。
ロシュは、ありったけの魔力を注ぎ込んで風の魔法を発動準備をする。
『何か企んでるな』
邪竜ファントムは口から火炎を放射する。
ロシュは手をかざし、ありったけの魔力の風を前方に張った。
「ウインド・ウォール」
ロシュは、火の粉を散らしながら、全力で封じる。
アテナは、その間に、携帯の杖を取り出し、魔力を最大限込める。
「ルクセル王家の秘術。見せてあげる。いでよ。へルディエル」
アテナの前方から巨大なゲートが開き、4本足の獣が出てきた。
猟犬のようなスタイリッシュな獣。それが、へルディエルだった。
『ルクセルの守り神か。小娘。お前あそこの王家の者だったか』
邪竜ファントムは。ヘルディエルと地上に降りて、取っ組み合いが始まった。力は互角のように思った。
「ロシュ。この召喚は長く維持できないわ。あとよろしくね」
「任して」
ロシュは、腰に差した宝刀。真っ赤な刀身の刀を引き抜いた。
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ロシュの魔力が、真っ赤に燃える刀身の刀に流れ込み、刀の魔力がロシュに流れ込む。お互いの魔力が交換し終えたとき、刀身は炎を纏い、真っ赤に燃え上がる。
『なんだと。この反応はオリハルコンか』
邪竜ファントムは、ロシュを睨む。
『人間族はどれだけタブーを破れば気が済むのだ。これは許せん。もう遊びは終わりだ』
邪竜ファントムは大きく息を吸い込み、一気に極大の火の玉を吐き出す。
ロシュは、燃え上がる刀を構え、思いっきり、振り抜く。
ーーー炎蛇。
真っ赤に燃える刀から、炎の蛇が飛び出し、ファントムの火の玉さえも打ち破り、邪竜ファントムの肉体を焼き尽くす。
『クソ。オリハルコンを持ち出しおって。人間よ。我らドラゴン族に邪竜のレッテルを張り、滅ぼした落とし前は、貴様らの子孫が払うことになるぞ』
邪竜ファントムは、みるみる全身を炎に焼きつくされていき、まもなく、牙が落ち、息絶えた。ドシンと地響きとともに、一頭のドラゴンがこの世を去った。
ロシュは、呆然とその様を見ていた。
アテナは、よろよろとロシュに歩み寄ってくる。
ロシュは最後のファントムの言葉が気になって仕方なかった。
すると、アテナがロシュのすぐ隣まで来ていた。
「やったわ。ロシュ」
勢い良くロシュに抱きついてきた。
アテナのほっそりとした華奢な身体がロシュの身体にすっぽりと収まる。
アテナの勢いがあり過ぎて、お互い倒れてしまった。
「実感が湧かないけど、本当に、本当に私達やったのね」
寝そべったまま、アテナは頬をつねる。アテナは、半泣き状態だった。霧の山は滅多に日の光が入らないが、このときだけは入り、アテナの栗毛色の長い髪が日の光に反射して、まるで女神みたいで少しロシュも見惚れてしまった。
「おめでとう。アテナ。これで、打倒ドラマタに一歩近づいたね」
アテナは強く頷く。
「ええ。これで念願のマイホームが買えるわ」
ロシュは、しばらく思考が止まった。
「は?」
03/
海上都市ポセイドンでは、アテナの作った新米ギルドが邪竜ファントムを討伐したというニュースで、持ち切りだった。
あの貧乏アテナが、とか疫病神アテナが、とか不名誉な通り名が付きすぎていたが、そのレッテルも今日を以ってすべて返上されるのだろう。
それくらいビッグサプライズニュースだった。
しかし、肝心のアテナはと言うと、あれから2週間。一切ギルドの仕事を引き受けなかったり、SSランククエスト達成の表彰などをぶっちし、引き篭もりのような自堕落な生活を送っていた。
「おい。アテナ。打倒ドラマタはどうしたんだよ」
アテナはクエスト報酬を得ると、真っ先に海上都市ポセイドンの郊外にこじんまりとした屋敷を建てた。そこに、今はギルドメンバーのアテナとロシュの二人で住んでいた。
だが、それからというもの、部屋に引き篭もって、雑誌などをぺらぺら読みながらベッドで寝転がるアテナを見かねて、ロシュはたびたび苦言を言うのだった。
「え。するよ。そのうちね」
ペラペラ雑誌を読みながら、あっこの服カワイイ、とか言ったと思ったらカタログ注文で服をすぐ買うという自堕落さ。
お菓子を食べなら、毎日散財しまくる典型的なダメ王族そのものだった。
「いい加減にしなよ。そんな散財してたら、また貧乏になるよ」
アテナは、ロシュの言葉に反論する。
「わ、分かってるわよ。そのくらい。私が一番分かってるわ。でも。私もやめなきゃいけないって分かっているのに、今までの生活の反動でやめられないの」
見ると、アテナの指がぷるぷる震えていた。
「屋根のない生活。浴場もない生活。ご飯すらなくて、ごみ捨て場から漁る日々。ロシュにはわからないわよ。あそこまで生活が落ちて、戻ってこれたら、なんかもう、心ここにあらずみたいな感じなのよ!!」
アテナは叫んだ。
「ていうか、アテナがそんなに散財してるんだから、そろそろもうひとつ新しいベッドを買ってよ」
ロシュは、最近の生活の耐え難い苦情を訴えた。
「え。駄目よ。ロシュは毎日、私と一緒に寝るの」
なんでだよ!?
とロシュは訴えたかった。猛烈に。
「何、言ってるのよ。あんた、まだちっちゃいじゃない。私もまだ15歳だし。一緒に寝ても、全然大きめのベッドなんだからスペース空いてるじゃない」
アテナは、至極当然だと真顔で言った。
アテナは、今一日中寝間着だから、関係ないが、ロシュはそろそろ寝る準備をしなくてはならない。
「さっさと、寝る準備するわよ。で。さっさと寝る」
アテナは、ロシュに子供をあやすように言った。
04/
夜になった。消灯は消え、ロシュとアテナは背中合わせで同じベッドの中で寝ていた。
すると、アテナがロシュの背中にぽんと頭を載せて囁いてきた。
「ごめんね。ロシュ。私もさ、できたら、一人で寝かせてあげたいんだけど。ドラマタの王子のことがあるから、どうしてそばにいてほしいの。昔から、寝こみとかも狙われたことあるから、いつも不安で。ロシュが側にいてくれて、本当に初めて安心して寝られたの・・・。あんた、強いからさ」
アテナの身体が震えているのを感じた。
アテナは力無く笑った。
「そっか」
今のロシュには、うなずくことしかできなかった。
その日以降、ベッドを買えとはロシュは言わなくなり、代わりに打倒ドラマタを言うようになった。