第2話 打倒ドラマタ!!資金作りはギルドから?邪竜ファントムとの死闘 前編
/01
「いいかしら。ロシュ。ドラマタ打倒に何が一番必要だと思う?」
亡国の姫、アテナは、栗色の長い髪をふわっと指でかいて、優雅に僕ことロシュに質問してきた。その様も絵になるのか、周りの男たちはアテナに見惚れていた。
ここは、大きな街の食堂。僕たちは大森林地帯を抜け、大きな街海上都市ポセイドンにやってきた。
金髪碧眼で13歳くらいの見た目の僕は、15歳のアテナに比べると、周りからは完全にアテナの弟分みたいに見られていた。
僕はそれを少し危ないな、と感じていた。
「えっと。仲間、とかかな」
アテナは、食堂で出されたコーラジュースのジョッキをグイグイと一気に飲み干し、
「違うわよ。お金よ。お金。活動資金。あんたはまだ小さいから、世の中の厳しさを知らないのよ」
現に、この食堂の食事代は、以前の森林地帯でアテナがドラマタの兵士に襲われた際に、僕ことロシュが撃退し、気絶した兵士の財布を拝借したものだった。
あの時、こそこそと財布を兵士から拝借しているアテナの後ろ姿をロシュは見ていると、なんというか、王族というよりも、チンピラ風情が合っている気がしてならなかった。
「アテナは凄いな。王族とは思えない金銭感覚だね」
僕ことロシュは凄く感心したように言った。
アテナはコーラジュースで酔っているのか、呂律が回らず、口足らずな感じで、
「ふん。私がどんだけしゅらばぁあをくぐり抜けてきたと思ってるのよ。人生はしにゲーよ。なんどぉも何度もりふぅじんな目に遭いながら、なんとか命からがらからだぁと命を守ってきたのぉ」
アテナの苦労が垣間見えた。アテナも、うっすら涙目だった。僕ことロシュもホロリともらい泣きしてしまった。
ただ、アテナはテーブルから乗り出して、僕の唇近くまで急接近するのはやめてほしい。
顔と顔が近い。アテナの健康的な色の唇がよく見えた。
「なんだかぁ、あついわね」
アテナは、椅子にきちんと座り直すと、着ていた赤いローブを脱ぎ、白い薄手のワンピース一枚になった。長い栗色の髪に、透き通るような木綿のようにきめ細かな白い肌。
それを周りの席で座っていた男たちは、少し歓声のようなものが上がった。
僕は、周りからやっぱりアテナより年下に見られるのは、危ないと感じた。
「これからぁ、ギルドに行くわよぉ」
なんとも頼りなさげに、アテナはこれからの方針を口にするのであった。
食堂のカウンターテーブルからは、ニヤニヤ顔を浮かべてずっとアテナたちを見ていた赤髪の若い男がいた。
/02
海上都市ポセイドンのギルドは大国ゼウスの中でもギルドの元締めのような役割を果たしており、大陸中のクエストがポセイドンのギルドに集積していた。
ギルド会館は青を基調とした荘厳な巨大な建築物だった。
街の中心で、僕ことロシュはギルド会館を見上げていた。
アテナはこれまでの疲れからなのか、まだ本気で酔いが冷めないからなのか、よろよろ歩くから、ロシュはアテナの手を繋いで、はぐれないようしっかり管理していた。
しかし、アテナもギルド会館の前に来ると、元に戻り、気を引き締め直していた。
「いよいよ、ね」
アテナは真剣な面持ちでつぶやいた。
ギルド会館に入ると、大広間があり、各々ギルド所属の冒険者がコミュニケーションを取る団らんする場所となっていた。
アテナは黙ってその場を押し進む。
アテナ程の美少女が通り過ぎるから、大広間の人たちは視線でアテナを追いかけていた。赤いローブをはためかせ、栗色の長い髪がなびく。
アテナは受付の前に立つと、すぅーと深呼吸をし、受付の女性に勢いよく話しかける。
「さあ。今日こそ私のギルドを作らせてもらうわよ。ディーネ」
ディーネと呼ばれる眼鏡をかけた若い女性は微笑んだ。
「いらっしゃい。アテナ。またギルド創設の申請?あれは二人以上いないと作れないわよ」
アテナはふふふ、と不敵に笑う。
「大丈夫よ。ディーネ。今日いるから、も う 一 人」
アテナはドヤ顔で言う。
ディーネは戦慄した表情を浮かべた。
「あ、あの、人間嫌いのアテナが、友達連れてきたの。だって、あなた、他のギルドからの勧誘は山ほど来てるのに、全部ぶっちしてたじゃない。しかも、いつもぼっちだし」
アテナはダメージを受けたように、態勢を崩しかけたが、持ち直して、
「ふふん、でも、これなら、文句はないでしょう。これで正々堂々クエストを受注できるわね」
アテナはドヤ顔を見せた。
「おい、待てよ。アテナ。そんなちんちくりんなんかと組むより俺たちと組めよ。そんなやつじゃすぐに全滅しちまうぜ」
先程の食堂の赤髪の若者がアテナに声をかけてきた。
「ロゼルさん。またアテナにちょっかいかけて」
隣りで話を聞いていたディーネはため息をついた。
アテナは、面倒くさげにロゼルを見ていた。
だが、ふっと笑い、
「雑魚はいらないの。私」
ロシュの腕を組み、アテナはふふんと鼻を鳴らす。
ロゼルはプライドを傷つけられたからなのか、勢い良くロシュに向かっていく。
ロシュはロゼルどのいざこざをどうやって丸く収めるか、少し考えていると、
アテナが勢いよく、受付のテーブルをドンと叩く。
「ディーネ、ドラゴン討伐のクエスト私達に頂戴!!」
ギルド会館にいた冒険者全員が、全員変な声を上げた。
「アテナが、ドラゴンだとおおあおお」
ディーネも戸惑うし、ロゼルも焦っていた。
「これから私達のギルドがどれだけ強いのか、まずはこの高難易度クエストで証明します!!!」
アテナは声高らかに宣言した。
ロシュは何がなんだか分からないが、大変なことに巻き込まれたと思った。
ロゼルは顔を真っ赤に腫らして、言った。
「顔が可愛いからって調子に乗りやがって」
/03
金銀財宝にしか目がない強欲の邪竜。ファントム。
討伐に訪れた冒険者を次から次へと倒し、戦利品を大量に溜め込んでいた。
その懸賞金額は、ゆうに大型ギルドの月の売上にも匹敵し、小型のギルドならゆうに数年は遊んで暮らせる額だった。
海上都市ポセイドンから南に位置する霧の山に棲息するとされている。根城も分かるのに、ずっと倒せない。それが、このクエストの難しさを物語っていた。純粋に大型ギルドの戦力でも、実力上厳しい相手なのだ。
「さあ、行くわよ。ロシュ」
アテナは霧の山を指差し、人形のような端正な顔がニヤリと頬を上げて不敵に笑う。
海上都市ポセイドンから南に下り、馬車で霧の山近くまで来て、これから霧の山の邪竜ファントムに挑もうとしていた。
「でも、アテナは闘えるの?」
アテナはふふん、と鼻を鳴らして得意げに言う。
「見くびらないで。私も魔法に関しては上手いのよ」
見てなさい、とアテナは栗色の長い髪を指でとく。
「足手まといにはならないわ。補助は任せて。でも、前衛の攻めの役割はロシュ、よろしくね」
綺麗な顔をにんまりとさせながら歩くアテナは、やはり他力本願じゃないのだろうかとロシュは不安になった。
☆☆☆
「おい。本気でやるのかよ」
「当たり前だ。ずっと気に食わなかったんだ。お高く止まりやがって」
ロシュたちから遠く離れた街道で、3人ほどの男たちが不穏な会話をしていた。
/04
霧の山は、悪路が続き、地面がぬかるんでいて、いつ足を踏み外して崖から地上に落下してもおかしくなかった。
「たぶん、ここは雨がよく降る上に、太陽の光が霧で届かないから、地面が相当ぬかるんでいるんだろうね」
ロシュは、端正な金髪碧眼の顔立ちを歪ませて、淡々と状況を分析する。
アテナはロシュについてくることが精一杯というより、ロシュの手助けがなければ山を登れないような状況に陥っていた。
少なくとも、5回。アテナは足を滑らせて、ぬかるんだ地面に転んでいた。咄嗟に、ロシュが手を伸ばしてなかったら、崖から落ちずていたかもしれない。
だが、明らかに、この時点でアテナの実力よりも難易度が高いとロシュは感じていた。
「大丈夫。アテナ。無理と判断したならいつでも引き返すけど」
ロシュは泥塗れになったアテナに気遣った。
キッとアテナはロシュを睨む。
「無理なんかじゃないわ。私はーーー」
アテナが言葉を紡ごうとしたとき、アテナは自分の口がうまく動かないことに気づいた。
―――しまった。
アテナは鈍い痛みを感じたとき、アテナは自身の華奢な細い足に矢が刺されたことに気づいた。即効性の痺れ薬が塗られてある。
ロシュは、それに気付いて、瞬時にアテナの身を守ろうと駆寄ろうとしたが、
「ファイアーボム」
崖の上から、炎魔法の炸裂魔法を何者かに放たれ、崖が崩れ、ロシュは呑み込まれてしまった。
『急げ、急げ。さっさとアテナをパクって、邪竜に気づかれる前にずらかるぞ』
目の前で赤髪の若い男ロゼルの顔が見えた。アテナを荷物のように担いでいるのが見える。
呑み込まれる土砂の中で、ロシュはかすかに、だが、確かに聴こえた。
―――ロ シュ 、 た すけて
ロシュの視界は土砂に埋め尽くされ、真っ暗になった。