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1-6 対策を検討1

 エヴァンゼリン10歳。サヨコさんの存在を知ってからすぐ誕生日を迎えた。

 ヨアンに運命を語られてから1年以上とは、早いものね。


 あの日からサヨコさんの宣言どおり、ヨアンは悪役令嬢の話をするときお嬢様と言わなくなった。ヨアン以外に理解者がいるってうれしいものだわ。


 そしてその後も3人(サヨコさんは実体がないから一人って数えるかわからないけど)による対策会議は続いている。


 最初は主に高等部になったときの対策について考えていた。可能なら『攻略対象』以外の人を好きになるのがベストだとヨアンは言うが、そんなに都合よくいくとは限らないので、叶わないときにできることをせっせと考え出している。こんな感じで。



「対策のひとつはヨアンよね」

「おそらくお金の管理をしているって点で、ぼくがしっかりしていれば襲わせたり、拉致したりってことはなくなると思います。ここは大きなポイントで、これを回避できれば追放、身分はく奪は逃れるはずです。」


「うん。もうひとつは『取り巻き』をつかった嫌がらせのほうね」

「水をかけたり、足をひっかけたり、教科書を隠したり、ドレスを破ったりっていうやつですね」

「いちいち取り上げなくていいから。これはもう『取り巻き』を作らないしかないわよね」

「ええ。悪役令嬢の学園での虐めはそのほとんどを『取り巻き』にやらせてますからね。ゲームにでてくる『取り巻き』以外の令嬢と仲良くしても同じことが起こらないとは言えませんし」


「なんだか、学園に行くのが憂うつになるわ。それって友達もできないってことでしょ」

「……」

 そこは黙らないでほしいんだけど。


「サヨコさんが『これだけは本当にごめんなさい』って」

「大丈夫。高等部の1年間で終わるんでしょ?それが終わったら友達つくるから」

 サヨコさんに向けて笑った。(決してヨアンにではない)


 わたくしに対して何も言うことがないらしいヨアンにちょっとイラ立つが、もう一つ重要なことを指摘する。


「で、ヨアンも悪役従者になった場合はどうするの?」

「なりませんよ!ぼくがヒロインを虐める側にまわるとかありえませんから」


 全否定だ。でもね、

「ヒロインが好きなんでしょ?でもヒロインは別の人が好きなんでしょ?悪役令嬢の『攻略対象』と同じじゃない」


 イライラ全開の態度になってしまった。ここで止めなきゃって思ってたのに、次の言葉が出てしまう。


「こういうのを何ていうんだっけ。そうそう可愛さ余って憎さ百倍?」


 口、止まってくれなかった。

 自分でも思いのほか、学園でひとりぽっちかも、が効いているようで、言わなくていいことまで言ってしまった。どうしよう、ヨアンまた泣くかな。


 そうっとヨアンの顔を盗み見る。


 ちょっと恐い顔をしたヨアンが黙って床を見ていた。そうやってしばらく黙っていたが、ぼそっと返事が返ってきた。


「そうですね。そうならないとは限りませんね」

 おー、認めた。


 顔をあげたヨアンがまっすぐわたくしを見据えるとしっかりとした声で言った。


「その対策もたてないと」


 ひとりぽっち、どこかに飛んでいった。ヨアンが自分のことも認めるなら、主人たるわたくしも頑張らないといけないわね。



 お互いお勉強やお稽古事もあったから1週間に1、2回しか時間は取れなかったが、その後も話し合いを重ねる。

 悪役従者の一件以降、ヨアンも高等部入学後の対応だけでなく、ヒロインが編入してくる前の対策にも耳を傾けてくれるようになった。


「ヨアン、そもそも論も取り入れたい」

「別の学校に行く案ですか?」

「そう。同じ学園に行くから問題が起こるなら、別の学校に行けば解決よね」

「そうですねぇ。でもどこに行くつもりです?」


 ここ数日温めていた学校の名前をあげる。


「うーん、ひとつめは厳しいかも。旦那様が国外に出るのは、うんと言わない気がします。ふたつめは、ありかもしれませんね」


 ひとつめは隣国にある有名な寄宿学校だ。周辺諸国の貴族の令嬢が学ぶ学校で、時折王女様も入学することもある名門校。いわゆる花嫁学校だから授業自体は退屈そうだけど、文化都市で有名なセルーニア自由都市に美術鑑賞旅行がついてたりと、異国に行ってみたいわたくしには憧れる学校だ。

 ただヨアンの言う通り、わたくしのことが大好きなお父様は寄宿学校に入るのは反対しそう。逆にお母さまは賛成してくれそうだけど。


 ふたつめは王都内にあるミッション系の学校だ。エルミナス学園は王立だけど、こちらは教会が設立した学校で、聖職者や修道女の専門学科の他にも貴族や平民も一般教養を学ぶことができる学科がある。そうか、狙うならこちらか。


「でも、王立の学園に比べるとかなり格が落ちますけどね。そこを旦那様がどう考えるかだと思います。」

「そうなのよねー。でも教会が設立している学校だから男女別の授業じゃない?この一点だけでお父様を説得できそうって思うんだけど、どうかしら?」


「なるほど、お嬢様大事の旦那様なら、男女別のクラスになっている聖クレモナ学院は安心かもしれませんね。確かダンスの授業くらいかな、一緒になるのは」


 お父様にお願いすれば、聖クレモナ学院に入学できそうな気がしてきた。よし。


「とりあえず、お父様にお願いしてみる」

「はい。お願いします」


「えーと、あと、高等部に入るまでにできることって――」

 と、こんな風な具合に。


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