1-51 ロミルダに相談3
「それで相談って?」
「あ、その前に――」
巾着からお礼の品を取り出すと渡した。箱に入ったハンカチ。白いハンカチには青い鳥の刺繍が隅に入っている。ヨアンが高価過ぎないものをというので、例のお小遣いの範囲内で考えて買ってきてもらったもの。でも、本命は箱の方なんだけどね。
「これ、カルトナージュしてるの?」
「ええ。ヨアンとわたくしの手作りですのよ」
エドゥアルト様から渡された紅茶の箱に感化されていたサヨコさんが、ぜひ手作りしましょうって言うものだから作ったの。時間がなくて大変だったけど、結構うまく作れたと思うわ。
箱は生地を貼ってレース編みのリボンで飾ったもの。生地は生成り色の地に淡い黄色と若草色の細いストライプの織り模様があって、さらに白い薔薇が刺繍されたものを使っている。
「すっごく可愛い。ありがとう」
気に入ってくれたみたいでよかった。
「ふふ。こんな物ももらっちゃったから、気合い入れて相談に乗るわね。もしかして、イヴリンは今後も街に出てきたいのにヨアンに反対されるとか?」
まさに、相談したいことのひとつよ。でも先に解決したいことがある。
「それもありますわ。その件は後で相談に乗ってもらいたいんですの。でもヨアンの件の方が先で……」
「ヨアンがどうかした?」
ここ最近というか、秋の終わりくらいから気になっていたことをロミルダに聞いてもらう。
聞き終えたロミルダは、あっさりと肯定した。
「気付くの遅いけど、夏くらいにはすでに人気あったわよ」
そんなに前からとは。全然気づかなかったわ。
「ほら、わりと可愛い顔立ちじゃないヨアンて。黒髪に金色の瞳っていうのもめずらしいし。あの優し気な雰囲気と柔らかな態度っていうか物腰に夢中になってる子も多いのよ。街の男の子たちはがさつな子が多いから余計ね」
優し気な雰囲気は明らかに雰囲気だけだけど。
そうか、あの視線とか笑顔ってヨアンに向けられてるものだったんだ。ということは、お茶会のヒソヒソとかもやっぱり――。
「ま、ヨアンの場合は身近だから余計にっていうのもあるわね」
「身近ってどういうことですの?」
ここには月に1回来るか来ないかの程度なのに、身近だなんてことがあるのだろうか。
「んーとね、そう、例えばカミル様。カミル様の場合は、みんな何となく住む世界が違うのはわかってるのよ。手が届かない憧れね。でもヨアンの場合は違うの。だってイヴリンのお伴で来ている彼は自分たちと同じ階級なわけでしょ。手の届くところにいるからね」
わかるような、わからないような。
「とにかく、ヨアンは女の子たちに人気があるということですわね?」
「そうよ。心配?」
「え?」
瞬きする。
「もう、ヨアンがモテるのが心配かって聞いてんの」
なんだか変な笑顔をしてるわね、まあいいわ。頬に手をあてて考えてみる。
「そうですわね……モテるのなら心配いらないと思うのですけど。甘いですかしら?」
ロミルダの目がものすごい速さで閉じたり開いたりしている。
「それなに?モテるほうがいいの?」
うなずく。
「だって、モテるってヨアンに好意があるってことでしょう?でしたら、陰口を言われたり、囲まれたりすることもないと思いますのよ」
「あーと、待って待って。イヴリンはヨアンの何を心配してるの?」
「何って、学園で嫌がらせを受けないかってことですわ」
「学園で嫌がらせって……え?ヨアンてばエルミナス学園に行くの!?」
そうか、ロミルダは知らないんだったわ。
「お話してませんでしたわね。ヨアンはエルミナス学園に通う予定なのです。そこで貴族の令嬢たちに絡まれたりしないかと心配だったのです」
なんと言っても反公爵令嬢が多い学園に通うのだ。変な嫌がらせとか受けそうだもの。
「ごめん、ちょっと話戻すね。ヨアンは学園に行くの?イヴリンが学院なのに?なんで?」
なんでって言われると、困るわね。あ、そうそう、お父様を説得したときの話を出せばいいんだわ。
「ミハエル――弟のためですの。将来、弟はエルミナス学園に入学するので、ヨアンには学園がどういうところか学ばせたいと考えてますのよ」
「へえ、弟がいるんだ。じゃあ、ひとりで学園に通うことになるヨアンを心配してるってことね」
「そうですわ」
「でも、それで何で貴族の令嬢たちに囲まれる心配してるわけ?通うだけで普通はそんなことは起こらないわよ」
「それは……」
返答につまる。
それは、ヨアンがわたくしと一緒にお茶会に出ているから。
お茶会では常にわたくしと一緒だから、ヨアンが嫌がらせを受けることはない。だが、学園に通うことになったらどうなるか。明らかに公爵令嬢派のヨアンが令嬢たちに囲まれない保証はどこにもない。
でも、そのことをロミルダに話すのはためらわれた。わたくしが原因の話だもの。
黙ってしまったら、そっと声がかけられた。
「もしかして、イヴリンて他の貴族の令嬢たちとうまくいってない?」
心臓がきゅっとなって、ドレスをぎゅっと掴んでしまった。
その言葉はとても痛いわ……。
ダメダメこんなことでうつむいてちゃ。そうは思っても顔を上げられずにいると、ガタガタッっと椅子を引く音がして、向かいにいたロミルダが隣に座ったのがわかった。
「ひたひ……って何するんですの!?」
おそらく頬をつねられた、らしい。
初めてのことで一瞬何がどうなったのかわからなかったけど、かなりの痛さで思いっきり顔をあげられた。
「ごめんごめん。深刻そうな顔してたから、つい、ね。ほら、考えてみるから、ヨアンに対する貴族のお嬢さんたちの様子を教えて」
まだヒリヒリしている頬をさすりつつ、ここ最近のお茶会での様子をロミルダに聞いてもらった。




