1-14 園遊会対策
ヨアンは忙しい中、いろいろと園遊会のことについて調べてくれた。
興味がなかったせいもあるけど、あまりにも知らなすぎね。もう少し社交についてもお勉強しなければ。
王子様のお誕生日は毎年祝われているらしい。王様みたいに祝賀の式典とまではいかないけど、それなりの貴族が王宮の庭園に集められて祝うのだとか。
毎年お父様もお母様も出席してたみたいだけど、気づかなかったわ。だって、うちの家はお呼ばれする回数も多くて、いちいち何の会に行くのかとか気にしてなかったし。
「子どもも呼ばれるのね?」
「王子様のお誕生祝いだけですけどね。通常の王家主催の催しは15歳以上が参加条件です。王子様が10歳から15歳の間だけ、10歳以上であれば、招待を受けて参加できます。たぶん同世代だからでしょうね。」
だから10歳になったわたくしも招待されたのね。
「ということは、これからも毎年招待される可能性が高いということ?」
「まず間違いなく。公爵家のご令嬢なので」
なんだか頭が痛い問題だわ。最低でも年一回は会わなければならないということになる。
これってどうにもならないのかしら?と言ってみたら、
「なりませんよ。貴族の義務でもあるので、あきらめてください」
きっぱり、はっきり言われてしまった。
「仕方ないわ。参加してどうするかの対策を考えましょ。サヨコさんは何て言ってるの?」
気持ちを切り替える。
「ぼくも園遊会に参加できないかって」
ヨアンも!そうよ、そうなってくれれば、わたくしも安心だわ。
「貴族でもないぼくが参加するのは無理だって言ったんですけどね」
そういうと肩をすくめた。
うーん、確かに一般庶民なら難しいかもしれないけど、ヨアンの家は準貴族。マクシミリアン公爵領で領地の管理をしてもらっている一族で、別途近隣地域の地主でもある。
なんとかできるかもしれない。
「大丈夫かも。ヨアンが来てくれるのと、来てくれないのじゃ対策の立て方も変わってくるでしょう。お父様にお願いしてみるから、ちょっとだけ待って」
数日後、ヨアンの園遊会参加が決まった。
「うふふ。ヨアンも参加することになったわ」
「お嬢様、すごいですね。どう旦那様を説得されたんです?」
説得と言っても、大した話はしてない。
今回の園遊会はお父様とわたくしだけの参加だ。お母様は弟を産んで一年も経たないとのことで辞退している。ただお父様と一緒と言っても、ずっと一緒にいられるわけではない。きっと大人同士の話もあるだろうし、聞けば子ども用のスペースが用意されているとのことなので、そこにひとり置かれてしまう可能性が高い。
だから――
『お父様、そんなところに、わたくしひとりにされてしまったら、泣いてしまうかもしれません。だってお友達もいないんですもの』
ここで、うるっとしてみるのがベストだけど、そう簡単にうるっとしないので、精いっぱい困った顔をしてみる。
『エヴァンゼリン!ああ、かわいそうに。それは心配だね。だが、エヴァンゼリンは可愛いからすぐにお友達はできるよ』
ぎゅっと抱きしめられて痛い。
『でも、エヴァンゼリンは恥ずかしくてお話できないかも。せめてヨアンがいてくれればいいのに』
『恥ずかしいなんて、なんて可愛いことを言うんだ。でも、ヨアンか。そうだな、ヨアンがいれば私も安心だ』
「というわけで、お父様が典礼官の方に掛け合ってくれたのよ」
はい、とヨアンに招待状を手渡す。
どうしたの?うれしくないの?顔が微妙よ。
「お嬢様……今、サヨコさんと話しました」
あら、緊急のお話?
何を話したのか、ヨアンの次の言葉を待つ。
「ひとつ、わかりました。旦那様です。旦那様がいることも悪役令嬢への道です!」
ええー?どういうこと?
「前々から甘いなって思ってはいたんですけど、この話で確信しました。旦那様も悪役令嬢の一味です。悪役従者が大金を動かせたのも、今ならわかります。旦那様が黙認されたからです」
きっと、悪役令嬢のお嬢様に何かほしいものがあるとか何とか言われていたんでしょう、という。
ここしばらくなかった衝撃だわ。お父様も一味の可能性があるだなんて……。
「とりあえず、旦那様のことは改めて考えましょう。今は園遊会が先です」
「そうね……」
なんか、4人のことはどうでもよくなってきた。
でも気を取り直さねば。まだヒロインは登場しないから、ヨアンは『メロメロ』しない。今回『メロメロ』になる可能性があるのはわたくしだけだもの。
「まずは、お嬢様が最も気にされている『メロメロ』について話しましょう」
今回もわたくしはお勉強机を前に座っている。もうこの形にも慣れてしまったわ。
「それで、『メロメロ』に対策はあるの?」
「ないです」
……。
もう怒る気はないわ。そうよね。
「でも、ちゃんとこの3週間の間にサヨコさんと話し合ってきたんですよ。と言っても、『メロメロ』後の話ですけど」
「『メロメロ』後?」
「そうです。『メロメロ』が止められないのは仕方ないので、逆にこの時点で『メロメロ』になったことをいいことだと捉えます。今なら隣国の寄宿学校に入学が可能なので、バルタザールさんに頼んで、どんな手を使ってでも入学してもらいます。」
おお。すごいわ。強硬手段というやつね。
そういう風に説明されると、今の時点で『メロメロ』も悪くないわね。確かに早い方が対処もできるわ。入学後だったら、学校を変えるのは難しいもの。
「……でも、先ほどのお嬢様と旦那様のやり取りを聞いて、バルタザールさんにお願いしたとしても、寄宿学校案はかなり不安です」
お父様は大反対でしょうね……。わたくしのこと大好きだから。
「とにかく、『メロメロ』については発覚した時点で、以後の対処を全て見直します。一応サヨコさんとふたりでその辺の案も考えてますが、すみません、これ以上はお嬢様に知られてしまうと逆に対応されてしまうので言えません」
「わかったわ。この件については、ふたりとバルタザールにまかせるわ。わたくしが知ってしまうのはよくないものね」
万一『メロメロ』になったら後のことはふたりに頼もう。ふたりがいてくれてよかった。
あ、そうそう。
「わたくしもふたりに言うことがあるの。『メロメロ』だけどね、ヨアンの言った『気合いと根性』ってあれ、実は重要なんじゃないかって思うのよ」
「気合いと根性が、ですか?」
なによ、自分が言っておいてその目は!もうやる気がそがれるじゃないの。
「とりあえずね、気を強くもっていくの。ぜーったい『メロメロ』にならないって!」
そしたらきっと大丈夫!って高らかに宣言したのに、ヨアンの感動は呼べなかった。
えー、気持ちって重要じゃない。ヨアンに謝るために立ち上がれたのだって気合いあってこそなのよ。
その後、冷静に、4人との遭遇を避けるために、とか、婚約者を探せっていう対策に話を持っていかれてしまった。そういうとこ、相変わらずよね、ヨアン。
あの反省中に思ったの。弱い心だと『メロメロ』になっちゃうかもって。
だから、強くなるわ。『気合いと根性』よ!