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1-12 招待状

 エヴァンゼリン10歳。問題は前触れもなくやってくることを知る。


 バルタザールの試験(?)を及第してから3か月が経った4月。

 家族揃っての朝食の席で、お父様から差し出された一通の招待状から始まった。


「エヴァンゼリン。王子殿下より園遊会の招待状だよ。2か月後にあるから準備しておきなさい」

 招待状がわたくしに手渡される。


 それは王子様の11歳を祝う園遊会への招待状だった。

 祝う方の名はディートフリート殿下。よりによって第一王子ではなく第二王子。


「クリスティーナ、準備を頼む」

 お父様がお母様に私の準備を頼んでいるのがやけに遠くに聞こえた。


 招待状を手に、無言なままのわたくしをどう思ったのか、お父様が声をかけてくれる。

「可愛いエヴァンゼリン、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。お父様も一緒だからね。お前はいつもどおりにしていれば、それだけで可愛いんだから問題ない」


 お父様、いつも「可愛い」をありがとう。でも、緊張はまったくしていないの。ただ、ちょっと自分たちの間抜けさに驚いているだけで……。


 味がしなくなった朝食を胃に送り込むと、なんとか自分の部屋に戻って、ソファに腰をおろした。

 お母様には午後からはドレスの打ち合わせだと言われているから、自由な時間は今から家庭教師の先生が来るまでの間と、お勉強の後のお昼までのほんの少しの時間しかない。でも、少しでも早く、ヨアンにこの話を聞いてほしい。


 一旦ソファに座ったものの、話を聞いてほしい気持ちがいっぱいで、落ち着いて座っていられそうにないわ。このままお勉強の後まで待てるかしら。……いや無理。やっぱり聞いてほしい。

 そう思ったらソファから立ち上がっていた。

 何事かと侍女が反応する。そしてそのまま侍女とバッチリ目が合ってしまった。


 ……こうなれば仕方ないわね、ヨアンを探しに行って話を聞いてもらおう。お作法の先生の手先の手前、部屋をウロウロなんてできないもの。


「庭を散策してきます。先生が来る前には戻りますから。あ、付き添いは結構よ」



 朝のこの時間だと庭師のお手伝いをしているか、剣のお稽古か。

 ヨアンがいそうなところを探すため庭にでる。


 庭師のお手伝いなら、温室か、玄関付近だろう。剣のお稽古なら厩舎の方かな。玄関と厩舎は反対方向にあるから、どちらに行くか決めなくては。話す時間もほしいから、探す時間はなるべく短くしたい。

 ちょうど近くにいた庭師のひとりに聞いてみる。


「お嬢様、おはようございます。ヨアンをお探しですか。ヨアンなら――」

 わたくしの右肩辺りを指さされる。

 ん?わたくしの後ろ?

 急いで振り返ると厩舎の方角からヨアンが歩いてくるところだった。

 庭師に礼をいってヨアンに駆け寄る。


「ヨアン!」

「あれ?どうしたんです、お嬢様」


 チュニックに革の胸当て姿だ。手には刃をつぶした剣を持っている。朝の剣のお稽古だったらしい。

 とにかく急いで、朝食でのことを語る。


「うかつでしたね。学園のことしか考えてませんでしたけど、今後お茶会なども増えてきますね」

 やっぱり、そうよね。

 学園にばかり目が向いていたけど、10歳も過ぎたし、これから社交的な招待が増えてくるわ。中には今回みたいに断れない招待だってあるだろうし。


 それにしても、こんな大事なことが抜け落ちているなんて。サヨコさんはこちらの貴族社会については疎いから気づかなくても仕方ないけど、わたくしとヨアンが気付かないのは間抜けすぎるわ。


「ヨアン、王子様と会わなくちゃいけないのよ、どうしよう」

 とにかく、心配がいっぱい。


「あー、お嬢様、申し訳ないんですけど、授業が始まる前に着替えたいんで、これで失礼しますね」


 あっさり、わたくしを置いて自分の部屋へ戻ってしまった。

 もっと、聞いてほしいのに!



 今日のお勉強は全く身に入らなかった。先生の質問に答えられなかっただけでなく、たくさんの宿題も出されてしまう。

 3か月前に家庭教師の先生が替わって、前よりも宿題の量が増えていたところに、この量の追加は、へこんでしまうわ。


 そして、お勉強のあとでしっかりヨアンにもお小言をいただいてしまった。一緒にお勉強しているため、同じ量の宿題がヨアンにも出されるからだ。


「ぼく、結構忙しいんですけど。この宿題の量ってお嬢様のせいですからね。しかも対策案の中には勉強も含まれてましたよね?」

 にらまれる。


 なんたって6年後の悪役令嬢はかなりのおバカさんになっているというので、勉強も頑張ろうって言われている。だからヨアンの言葉に反論の余地はない。


「ごめんなさい。宿題の件も申し訳ないと思うわ。でも今朝の招待状にびっくりしたんだもの」


 だいたい、着替えに行ってちゃんと話を聞いてくれないヨアンも悪いと思うの。あの時もう少し話を聞いてくれていたら、少しは落ち着いてお勉強できたのに。


「まぁ、驚いたのは仕方ないです。社交界のことすっかり忘れてたのはぼくも同じなので。それで一応考えてみたんですけど」

 ヨアン……すごいわ、もう対策を考えてくれたの?


「これってチャンスでもあると思うんですよ」

「チャンス……」

「例の4人に会うのをお嬢様は気にしてますけど、他の貴族の子弟も来ているわけでしょ。だったらお嬢様の婚約者探しに持って来いの場ですよね」


 なるほど。対策案のひとつ、『婚約者を探せ』を実行するわけね。


 ヨアンが言っていたわ。悪役令嬢の不幸のひとつに、正式な婚約者がいないことがあるんじゃないかって。婚約者がいれば『攻略対象』もヒロインも意識することがなくなるかもしれないし、虐めることもなくなるかもしれないって。


 そう言えばその時、とっても失礼なことも付け加えてくれたわね。悪役令嬢は、公爵令嬢なのに16歳にもなって王子様と婚約できてないなんて、何か問題があるからに決まってる。だから、お嬢様は16歳までに婚約しましょうね、ですって。このままだと問題があって婚約できないみたいじゃない。


 失礼な発言は忘れるとして、少し予定より早いけど、対策を実行する日が来たってことね。早めにお相手を見つければ、その分だけ王子様との婚約話自体がなくなったり、断りやすかったりするもの。


「予定を早めるってことね。そこは見つけるように頑張る。でもこの園遊会はどうするの?王子様のお誕生日を祝う会なんだから他の3人も来てるでしょう。お相手を見つける前に4人の誰かに、えーとなんだっけ『メロメロ』?になったらどうするのよ」


 そう、これが一番聞きたかったことなの。


「あー、それはあり得ますね」


 あり得るの!?

 今のわたくしはきっとめいいっぱい目が見開かれていると思う。


「じゃあ、どうすればいいの???」


「んー、そうですね、気合いと根性で惚れないようにしましょう」


 何の解決にもなってない!

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