六.
担当医と看護師長にあらためて今後のことをお願いして部屋を出たが、すぐ近くにある病室にはそのまま戻ることが出来なかった、まだ顔色もよく明るい母があとわずかな命だと知った今、どんな顔をして会うべきかわからなくなっていた。
「ちょっとタバコ吸ってくる・・・」
そう言って君枝と別れ、病院の外にある喫煙コーナーまでゆっくり歩きながらこれからのことを考えようとした、でも何も思いつかず、ただどうしようかと思いながら喫煙コーナーまで来ると、おそらくただ遠くを見つめるような虚ろな目でタバコに火をつけ、数回、まるでタバコの煙を深呼吸するように大きく吸い込んでゆっくりと吐き出した。
急に目頭が熱くなってきた、周囲の人の目が気になるため涙こそ流さなかったが、心の中では大声をあげて泣きたかった。
親なんだから、自分よりも早くいなくなることぐらいわかっているつもりだった、大好きだった母方の祖母が99歳のときに老衰で亡くなったときも、大往生なんだと普通に受け入れた、高校生の頃は何かにつけて長男、長男と言って私のことを少し蔑んだ目で見ることもあった母だったが、小さい頃はとてもかわいがってくれた母、まだ明るい笑顔の母があと数か月でこの世からいなくなるという現実は、祖母の時のように簡単に受け入れることはできそうになかった。
2本ほどタバコを吸って病室に戻った、君枝は母親と婦人雑誌の記事のことを話していたが、私が戻って暫くすると母は言った。
「こんな個室で入院費が少し心配だけど、お金はお兄ちゃんに渡してあるから、お前は何も心配しなくて良いからね」
「そうなんだ」
まだ兄を頼っているのかと思いつつ、とりあえず欲しい物や必要な物が無いかなどを聞いて病院を後にすると、実家へ向かう車の中で冗談まじりに言った。
「CT画像が出てきて、もしかして癌なのかもしれないと思ったんだけど、実際に余命宣告を聞いたらガーンとなったよ」
笑えないジョークのつもりだったが、君枝は気遣ってくれたのか笑ってくれた。
「でも、冷静にこれからのことを話していたよね、取り乱すことは無いと思っていたけど、あそこまで冷静にこれからのことを話すとは思わなかった」
「わからないんだけどね、3か月なんて現実的な数字を言われた途端、あれ以外の言葉が出てこなかったというか、痛みを和らげること以外ないんじゃないかって思ったんだよね」
「そうだね」
それ以上、君枝は何も言わなかった。




