四.
そして今度は母が入院することになった。
入院したその夜、母親の詳しい様子などを私に話した後、君枝はまるで何かを感じとっていたかのように言った。
「明日か明後日、休めない?」
「なんだ、なにかあったのか?」
「はっきり言われた訳ではないけれど、担当の先生が息子さんと話がしたいって」
父親が2度目に脳梗塞で病院に運ばれたとき、担当の医師に『もしもの時』の話をされたことを思い出した。
「もしもの時、延命治療をしますか?」
そう医者に聞かれたとき、私は何も躊躇することなく必要ありませんと答えた。
無駄な延命治療は金銭的な負担がかかるだけでなく、そのまま長く生きることになった場合に家族の精神的な大きな負担になると思っていたので母や兄に相談することなくノーと答えた。
その決断を母は支持したが、実家に駆けつけていた兄は私を怒鳴りつけた。
「お前は親父を見殺しにするのか」
私はすぐにその言葉に反論した。
「ろくに見舞いにも来ないくせに、そんなことを言う資格があるのか?」
「兄貴も義姉さんもろくに見舞いに来ないくせに、人工呼吸器をつけて言葉を発することもなく、ただ息をさせられている親父の面倒を見ることが出来るのか?君枝には絶対にやらせないぞ」
そう畳みかける私の言葉に兄は何も答えなかった、母は兄の顔を見て一言だけ言った。
「私にはそうなったお父さんの面倒を見ることはできない、それにただ息をさせられているだけなら、お父さんはそんなことを望まないと思う」
母のその言葉が全てだった、兄は納得しない顔をしていたが、私と母に従うしかなかった。
そして、その時のことを思い出しながら君枝に言った。
「また延命をどうするかって話なのかな・・・それなら答えは決まっているんだけど」
「そうだね」
父の時のことを知っている君枝はただ頷いた。




