三十三.
父が預けられた2日後、出勤中の電車の中で携帯電話が鳴った、君枝からだった。
「お父さんが亡くなったって、施設の人から電話があって、すぐに来てほしいって」
私はすぐに電車を降りた、幸い地元駅から電車に乗ったばかりで数駅しか乗っていなかったが、戻るための下りホームに来る電車は急行のため通過する電車だった、会社に電話を入れて上司に事情を説明して電車を待った、数分で来る電車なのに、これほど待ち遠しく苛々させられることは無かった。
兄の携帯に電話を入れた、慌ただしい声で兄が出る。
「今、九州にいるんだ、これから一番早い飛行機で戻るけど、すまないけど親父を頼む」
「わかった」一言だけそう言って電話を切り、待ちに待った電車に乗った。
地元駅に着いて急いで自転車を飛ばして帰ると、用意されていた服に着替えて家を出た。
「焦っているのはわかるけど、運転気を付けてね」
助手席で君枝が言った言葉で落ち着きを取り戻した、確かに焦ってもしかたない、もう父は息をしていないのだから、最期を看取るとか、そういうことではなかった。
母の時に何度も通り慣れた道を通って施設に到着すると、受付の職員の案内で父が眠る部屋に行き、ベッドに寝たままの父に対面した。
「親父・・・」
父の傍にいくとまるで眠っているような顔をしている。
「昨夜、夕食を済ませて入浴して就寝時間にお休みになりました、朝食の時間に起きて来られなかったため起こしにきたところ、このように穏やかな顔ですでにお亡くなりになっていました」
「そうですか・・・」
君枝は父の首元を見て気づいた。
「このパジャマ、昔入院した時に私が買ったパジャマだよ、ズボンの裾が長いからってお義母さんが直したやつ・・・」
ロッカーの中には他にも洗濯してあるパジャマが入っていたが、その中で唯一君枝が買ったパジャマを着て息を引き取っていた。
それを聞き、父の穏やかな顔を改めて見たとき涙を堪えきれなくなって溢れ出た、案内してくれた職員は部屋から出ていき、私は誰の目をはばかることなく泣いた、その横で君枝はロッカーに入れられている荷物を片付け、俺がようやく落ち着きを取り戻すと部屋から出て、隣にある病院の霊安室に運ぶための準備を職員が始めた。




