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三十二.

 4月、兄は父の世話をするため、東京の本社に戻る申請をして単身で実家に入った。

 私も君枝も母の葬儀以降は実家に行くことは一切無かった、納骨もその他の行事も墓のある霊園の祭壇で済ませ、私はそこから自分の家に帰るだけだった。

兄が一緒に住むことになったので、ケアマネージャも父のことで私たちに連絡してくることは無くなった。

8月、母の新盆、霊園で会った父、兄との生活がどんなものなのか知らないが、食事だけはしっかりとしているのだろう、もともと単身赴任が多かった兄で、料理もまめに作る方なのでそれなりに食べているようで顔色は良かった。

「父さん、元気そうだね、顔色も良いし」

「あれはダメだ、これもダメだと煩いんだ」

 心臓も悪く、軽度の糖尿病にもなっていた父、そんな父の体を気遣って食事のメニューを考えているのかもしれないが、もう年なんだからたまには旨い物でも食わせてやれば良いのにと思いながらも口を出すのはやめた。

 そして9月、母が入院した日から約1年後、兄から連絡が来た、月末に出張で1週間ほど家を空けなければならないとのこと、父を一時的に施設に預けると言う、その施設は母が最期を迎えた病院に併設されている老人施設だった。

「気が向いたら様子を見に、顔を見せに行ってくれないか」

「わかった」

 義姉や子供たちはまだ宮城にいる、こっちで一緒に生活しているならば施設に預けられることもないのに、と思いつつも義姉や姪が実家に入って生活することは嫌だった。

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