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三十一.

 自分の家に戻って着替えを済ませた途端、心の中で何か張り詰めていたものが途切れたように涙が溢れ、それを堪えようとした私に君枝が言った。

「ずっと我慢していたんだから、思い切り泣きなよ、お義母さんがいなくなったのに、泣かないのはおかしいよ・・・」

 声こそ出さなかったが大粒の涙をボロボロとこぼして泣いた。

 君枝はそんな私をわざと放っておくように台所に立って何やら準備をはじめ、暫くして冷蔵庫に冷やしておいたグラスと缶ビールを持ってきて炬燵のスイッチを入れた。

 少し泣いて落ち着いた私を見ると、君枝はビールをグラスに注いだ。

「飲もうよ、いろいろあって年末からお酒飲んで無かったし、献杯しよ」

 テーブルの上に貰ってきた淡いピンク色の額に収めされた遺影の写真が置かれていた、葬儀の打ち合わせの際に遺影の写真を決めるように葬儀屋に言われ、父と君枝の3人で父と母が日帰りバス旅行などに出掛けていた頃の写真を引っ張り出してきて、一番母親らしい笑顔で笑っている1枚の写真を選んだ、父親もその写真を遺影にすることに大賛成した、そして紫色が好きな母だったから紫に一番近い淡いピンクの額縁にすることを決めたのは君枝だった。

「本当にお疲れ様、結局は全部あなたが決めることになって、誰が喪主なんだかわからないなって思っていたけど、たぶんあなたが全部決めて良かったんだと思うよ」

「そうかな・・・ありがとう、でも君枝が一番大変だったよな、入院中も本当に色々ありがとう、叔父さん叔母さんも言っていたけど、君枝がいてくれて本当に助かったよ、ありがとう」

 翌日も忌引休暇をもらっていたので、その夜は母の思い出話をしながら遅くまで飲んだ。

 その夜、母の戦後から父と見合いするまでのことについて君枝は病室で聞いたと話した。

「実の娘が生まれたら話そうと思って心の奥にしまっておいたんだって、お義姉さんにも話していないって・・・もちろん、あなたにも話してほしくないって言われたから詳しくは言えないけど、私には話してくれたよ」

 詳しい話を聞こうとは思わなかった、でも実の娘が生まれたら話そうとしていたことを聞いたという・・・なぜか嬉しくて余計に涙が出た。

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