三十.
葬儀屋に戻ってきて、会食が始まった。
私と君枝は親戚だけでなく参列してくれた近所の母の茶飲み友達の一人ひとりに挨拶して回った、君枝のことを知っている近所のおばさんたちは君枝を引き留め、私がそこへ挨拶に行くと素敵なお嫁さんと褒めてくれた。
「そうですね、確かに俺には勿体ないよね」と言って笑ってみせた。
しかし喪主代理の兄は義姉の兄弟に挨拶してから席に着くと、あとはほとんど席を立とうとせず、目の前に置かれたビールを飲みながら近くに座っている自分の子供たちと話すだけだった。
暫くするとだいぶ兄は酔ってしまっていた、どんなつもりで飲んでいたのか、悲しみを紛らわすためなのかどうかはわからない、確かに私も親父も酒好きなのは認める、しかし父は病気をしてからほとんど飲まなくなっていたし、私も葬儀が終わったら車で帰らなければならないため一滴も口にすることはなかったが、酔った兄を見ていた叔父が呟いた。
「喪主代理があんなに酒に酔ってちゃ駄目だ、皆さんに挨拶して回らなきゃいけないのに」
義姉も席に座ったままで動こうとしていない、それを見ていた経を上げてくれた義姉の兄も同じように呟いた。
「まったく二人して何をやっているんだか、いい大人が恥ずかしい」
ビールを各席に運び、親戚に酌して回っている君枝を見て母の姉妹たちが君枝を呼び止めた。
「君ちゃん、少し座って食べなさい、運転しないのだから少しぐらい飲めばいいのに」
君枝はその言葉に笑顔で答えて頷くだけで、一滴も飲まない私に気を遣うように動き回り、私も叔父や叔母との挨拶などを済ませると、君枝を呼び止めた。
「少し座れよ、食べ物はほとんど無いけど、お前は飲んでもいいからさ」
「うん、大丈夫、それに・・・やっぱり私たちがゆっくりお酒を飲む時間も、お酒も無いじゃん、なんかお義母さんが言っていたことが現実になったね」
君枝は母が夢の話をしたことを思い出すようにして笑った。
「そうだな」
私も母の言葉を思い出して笑った。
やがて会食が終わり、親父を兄夫婦に任せ、親戚を駅まで送って行くために駅まで何往復かの運転手役を終えると、実家に用意された祭壇の母の遺骨に手を合わせ、親戚に配るため遺影の複製を受け取って父にろくな挨拶もすることなく実家を出た。




