二十九.
翌日、葬儀が終わって火葬場へ向かう車の中、兄は霊柩車の助手席で位牌を持ち、その後ろを行くマイクロバスの助手席に遺影を抱えて私が乗り、後ろの席には義姉に支えられるようにして親父が乗り、君枝はその後ろの席に叔母と座っていた、もちろんそれが正しいことなのだろうと思ったが、それでも私が霊柩車に乗り、君枝に遺影を持って欲しかった、それでも君枝の隣に座った叔母と小さな声で会話をしている姿を見た時、なんとなくこれで良かったのかもしれないとも思った。
火葬場の待合室で火葬が終わるのを待っている間も私は叔父、君枝は叔母たちと話した。
兄は義姉の兄弟たちと会話をしているが、その義姉兄弟の長男、兄の結婚式の時に会ったことがあったので顔は憶えていたが、私はろくに挨拶もしていなかったのに向こうから寄ってきて私に頭を下げた。
「年末年始に病院に寝泊まりしていたそうですね、大変だったでしょうが最期を看取ることが出来たのは良かったですね」
この方は義姉の寺を継いだ僧侶で宗派は異なるが、通夜の席で母のために経を上げてくれた。
私は言葉が見つからなかった、まさかこんな言葉をかけてもらえるとは思っていなかったので、ただ深々と頭を下げ、通夜の席で経を上げてくれたことに改めて礼を言った。
火葬が終わり骨になった母が目の前に運ばれてきた、もはや面影も何もないただの骨、私は何の感情もわくことも無く、父、兄の次に骨壺に骨を収め、義姉、君枝、孫たちと続いて骨を収めていって参列者が全て終えると、最後に形の残っている骨を改めて兄と私が入れると、最後に兄がハンカチから取り出した補聴器を骨壺に収めた。
私は別に形見はいらないと思っていたが補聴器が無くなっていたことだけが気になっていた、まさかこんな時だけ、兄はしっかりと言うか、ちゃっかりしている。
帰りのバスで君枝と隣に座ると、君枝は私の耳元で言った。
「あの補聴器、最期はあなたがお義母さんに着けてあげてたのにね」
「通夜の前に探したんだけど無くてさ、まさか兄貴が持っているとは思わなかったよ」
「最後もあなたが入れてあげられれば良かったのにね」
「そうだな」
もうどうでも良かった、遺骨を抱いた兄、位牌を父が抱き、遺影を義姉が持っていることもどうでも良かった、骨になった母は何も言わない、苦痛の顔を見せることも無いが笑顔も見ることも無いのだから本当にもうどうでも良かった。




