二十七.
夜になって兄家族が到着した。
移動途中に連絡があり、霊安所にいる母の顔を見たいと言っていたため葬儀屋に話をしておいたので、実家に着いてすぐに霊安所に兄家族を連れていった。
我々が霊安所に着いて中に入ると、葬儀屋の男性が大きな冷蔵庫のような蓋を開け、母が横たえられている台が引き出されてくると義姉は泣きながらすがりつき、甥と姪も涙を流した。
「お義母さん・・・」
義姉が泣きながら言ったのを聞いたとき、その白々しい態度に怒りを覚えた、母の意識があるときには一度しか見舞いに来なかった義姉、私はあまりの怒りにその場にいることが苦痛になって外へ出た、そうしなければその場で義姉を罵ってしまいそうだった。
外でタバコを吸いながら待った、兄家族が出てくると実家から歩いて2、3分の距離なので、私は兄家族たちと少し距離を置いて足早に実家へと戻った。
葬儀屋との通夜、葬儀の打ち合わせメモを喪主の代理となる兄に渡し、君枝の淹れてくれたお茶を飲んで一息ついたときに兄が切り出した。
「病院からは何時頃に連絡が来たんだ?」
「朝の6時ちょっと過ぎかな」
「なんでその時すぐに連絡をくれなかったんだ、そうしたら俺だけでも間に合ったかもしれないのに」
家族全員で来たのが夜の7時過ぎだったのに何を言っているんだかと呆れた、そんなことよりも実家の玄関に置かれたままになっていた寿司桶を昼間に見てうんざりしていた。
「年末年始はここで楽しくしてたんじゃないの?親父を囲んで寿司かよ、いい身分だな」
私が嫌味な口調で言い放つと君枝はやめろと言わんばかりの顔をし、父はムッとした。
「俺と君枝は、年末年始は病院に寝泊まりしてたよ、紅白歌合戦も除夜の鐘も病院で聞いてた、朝昼晩コンビニ弁当とかおにぎりとかを病室で食べて、少しでもお袋の傍にいたいと思っていた、昼間のわずかな時間で家に帰って風呂に入り、着替えてすぐに病院に戻る生活をしてたけど、その間に病院に子供たちを連れてきたのかよ?」
訪問記録のノートに名前が書かれていないことを知っていた、兄はそのノートに名前を書くことを知っていたし、一人で来たときには書いていたから書くことを知らないはずは無かった。
「余命宣告を受けて年を越せないかもしれないって言っておいたよな、麻薬のパッチのせいで反応が無いから来る必要無かったのか?」
義姉も私に文句を言いたかったのかもしれないが反論する言葉は見つからなかったのだろう、下を向いているだけで、一番上の甥はすでに高校を出て就職していたし次男も高校3年生だったので私の言っている意味が理解できたのだろう、何も言わず下を向いていたが、まだ中学生の姪はほとんど会ったことのない叔父の怖さに義姉にしがみついていた。
「葬儀の件、あとは任せたから、華美なことやって金かけてもお袋は喜ばないだろうから、費用のことは預かってる金と、親父と相談してやって」
冷めていたお茶を一気に飲み干すと、君枝に声をかけた。
「帰ろう、ここにいてもしかたない、もう俺がやることは無い」
君枝に急いで支度をさせて実家を出た、家を出てすぐのコンビニに寄って缶コーヒーを買ってタバコを吸って気を落ち着かせようとした。
「まさかあそこまで言うなんて・・・でもすっきりした、お義母さんもそう思っているかもね」
その言葉だけが救いだった、そして君枝が続けた言葉は今も心に残っている。
「お義母さん言っていたよ、お兄ちゃんがあんなだから、兄弟うまくいくはずがない、親なら兄弟が仲良くして欲しいと願うのかもしれないけど、そうならなくても良いって」
一本でやめようと思っていたタバコだったが、もう一本火を点けた、涙を堪えながら君枝が言った言葉を噛みしめた。




