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二十二.

 先に病室に戻っていた君枝から、親父を連れてきてもらえるように人を手配してくれると聞き、とりあえず病室で母の様子を見ていた。

 布団の中に手を入れてその手に触れた、おそらく母には感覚など無いだろう、もちろん握り返してくることもなく、その骨と皮だけの手のひらが驚くほど冷たいことに驚く。

 体内の酸素濃度が下がり心臓の動きも低下しているのだろうか、血の気がほとんど感じられないが、それでもまだ心臓も動いているということは心電計が動いているということでわかる。

「もうこれで最期なんだろうな・・・」

 私が小声でつぶやくと君枝は何も言わずに傍にいて私と母の顔を見ている。

 部屋には誰も来ない、ナーステーションでは心電計の様子などを逐次確認しているはずだが、最期の瞬間は家族だけにしようとしてくれているのだろう。

 電話してからどれほど経ったのだろうか、慌てた様子で息を切らして叔母が病室に入ってきた、私はすぐに枕元を離れて叔母のために場所を開けると、私がしていたのと同じように布団に手を入れた、母の手を握っているのだろう。

「姉さん・・・」

 間に合って良かった、そう思うと、まだ心電計も安定しているし酸素の状態も安定しているので君枝と叔母に任せてふらふらと部屋を出て喫煙所へ向かってタバコに火を点けた、一息で一本吸いきってしまうのではないかと思うほどに深く煙を吸い込むと、空を見上げてゆっくりと吐き出しながら思った、兄は間に合わなくても良い、でも親父には間に合って欲しい、長年連れ添ったんだし、その最期に立ち会うことが出来る方が良い。

 そんなことを考えながらタバコを吸っていたが、今この瞬間に母が最期を迎えてしまったら、そう思い立ってタバコを急いで消して部屋に戻った。

叔母はまだ母の手を握っていた、叔母にしてみたら16歳も年の離れた姉、しかも叔母が東京に出てきて、私が生まれるまでは私の両親、そして兄と一緒に暮らしていたという、その姉の手を握って顔を見ている。

 君枝は叔母とベッドを挟んだ反対側に座り、私の顔見て、こっちに座るように目配せしたが私は首を振り、いつもより多く用意されていた丸椅子に気づき、足側に椅子を置いて腰を下ろした。

 叔母が私の顔を見る、電話でたぶんもう駄目だということを伝えていたので、私と君枝の顔を見て少し涙声で話した。

「俊ちゃん、君ちゃん、ありがとう、姉さんはいつも君ちゃん、君ちゃんって言っていたよ、色々気付いてくれて助かるって」

 君枝はただ頷くだけで、時折私の方を見るが、母の顔を見つめる時間が長い。

「私も、君枝のおかげで少しだけお袋と過ごす時間が持てたんですよ、年末から昨日まで病院に泊まっていたんです」

「さっき君ちゃんから聞いたわ、大変だったわね」

 別に大変だとは思わなかった、本音を言えばもう少し意識のある時に母と話をしておけば良かったと思った。

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