二.
母がなぜ父と一緒に病院に行くのを躊躇ったのか。
母が入院する数年前に父は脳梗塞を患ったことがある、幸いにもその時は間質性肺炎の治療で入院していた病院のトイレで発作が起き、たまたま同じ病室の人と一緒にトイレに行っていたため、すぐに適切な処置が施されて大事には至らなかったが、それでも右半身にはわずかに後遺症が残った。
私と君枝は父が肺炎の治療で入院していたときにも何度か見舞いのために病院に行っていたが、あの時も君枝から仕事中にかかってきた電話で脳梗塞を起こしたと聞いて病院に駆けつけた。
父はICUにいたが私や君枝とも普通に会話出来たし、その後一般病室に移ってから暫くは箸ではなくスプーンを使って食事をしていたが、退院する頃には普段と変わらず右手で箸を使ってご飯が食べられる程度に回復した、右半身が少し思うように動かなくなってしまって歩き方は少しぎこちなくなったものの、風呂に入るのもトイレに行くのも自分で出来る程度だったので3か月ほどで退院した。
しかし、肺炎で入院する前は足が痛いと言って歩くのを苦にしていた母に代わって近所のスーパーに買物に行っていた父が、退院後は右半身のわずかな後遺症のせいで動くことが面倒になったのか、買物に行くどころかほとんど家から出なくなってしまい、朝起きて洗顔、朝食、歯磨きを済ませると居間にあるテーブルのいつもの場所に座り、テレビで自分の好きな番組を見ているか新聞を見て過ごしているだけで、あとはせいぜいバルコニーに出て花の世話をする程度になってしまったらしい。
そのため母は足が痛くても杖をついてでも買物に行かねばならず、本当に痛くて辛いときに買物に行って欲しいと父に訴えても足の後遺症のせいで動きにくいことを理由に行ってくれず、そのうえ食事の支度や掃除洗濯なども全くしてくれなかったらしく、母は毎日の家事をこなすのが精一杯になってしまい、好きだったカラオケサークルにも行けず朝から晩まで父と2人きりで過ごすということに強いストレスを感じ、かなり疲れてしまっていたようで、そんな父に病院に付き添ってもらうのが嫌で君枝に連絡してきたようで、さらに医師から入院を勧められると、暫く家に帰らないで済む、少しのんびりしたい、そんなことを考えたため即決で入院を決めたらしく、後になって母はその時の心境を君枝に打ち明けたらしい。




