十九.
朝を迎えナーステーションに行って当直の看護師に新年の挨拶をした。
母がお気に入りのあの男性看護師が居て笑顔で挨拶を返してくれ、そして裏の部屋から出てきた師長が言った。
「なんとか年は越すことが出来ましたね、新年あけましておめでとうございます」
確かに年末に逝ってしまえば新年の挨拶など出来ない、これはこれで嬉しいことなのだと思っておめでとうございますと返した。
翌日も何事もなく過ぎていき、3日になって昼間に兄一家が病室に現れた。
「なんだ、居たのか・・・・」
病室に入ってきて、私と君枝がいることに驚いていたが、どうやら宮城に帰るから母の顔を見にきたらしい。
「年末から泊まり込んでいたんだ、昼間は家に帰って風呂入ったりしてたけど」
兄は少し驚いた顔をしていたが、義姉は顔色一つ変えなかった。
暫く病室にいたが大勢いてもうるさいから帰ると言い出し、兄は母に帰るねと声をかけた、もちろん返事はない、同じように義姉も声をかけたが反応はなかった。
「お袋、兄貴たち帰るっていうから、ちょっと見送りいってくる」
そういうと、酸素マスク下の母の口が動いた。
「何?何か言うことある?」
「君ちゃん・・・」
驚くほどか細く、小さな声で君枝の名を呼んだ。
「君枝ならここにいるよ」
「お義母さん、私ならここにいますよ」
その言葉を聞いた母はわずかに笑顔になった気がした。
その直後に兄や義姉が声をかけても返事にせず、表情も変わることも無かった。




