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十.

「君ちゃん、ほとんど毎日のように来てくれるけど大丈夫なの、電車で大変なのに」

「うん、でも君枝が行くって言ってくれるからね、でも君枝だって仕事があれば来られないよ」

「それはわかっているけど、君ちゃんの顔を見られるのは嬉しいんだよ」

 結婚当初、そして子供が出来なかったことなどで散々嫌味を言っていた母が君枝のことを少し頼りにしていることが嬉しかった。

「そっか、まあ義姉さんよりは気が利くもんな」

 冗談まじりに笑ってみせると、そうだねと言って笑った。

 暫くして兄が戻ってきて病室で少し話しをしたところで君枝が洗濯を終えて戻ってきたので、君枝を病院に残したまま兄と実家へ向かうと幸いにも父はリハビリのためデイケアの施設に行って不在だったため、二人でじっくり話をすることができた。

「今日、あらためて看護師に聞いたけど、やはり手術はダメなんだな」

「年齢的にも、それから体力的にも手術に持ちこたえられないだろうって」

「親父が脳梗塞で倒れたときには、まさかお袋の方が先だとは思わなかったけどな」

「ステージⅣってことは、ほぼ末期だってことだし、いろいろ調べたけど、すい臓や肝臓の癌だと、あの年齢的に手術は無理だって書かれているものも多いね、とりあえず痛みを軽減するための麻薬のパッチを使ってもらうことをお願いしたから」

 兄は納得できない顔をしていたが、黙って頷いた。

「親父の延命の話もそうだったけど、今回もお前が決めたな」

 一瞬イラっとしたが、冷静に言葉を返した。

「それなら、兄貴ならどういう決断をするんだ?余命3か月、年も越せないかもしれない、手術も出来ないとなれば、少しでもお袋が辛い思いをしないで済む方法を選ぶのが子供の役目じゃないのか」

 兄は一切言葉を発しなかった。

「後は親父に何て言って説明するかだな」

 その問いかけにも兄は何も答えない。

「俺は言うつもりはないよ、余命のことも癌のことも、言っても受け入れないかもしれないし、今は戻ってくるのを楽しみに待っているのだから、それで良いと思う」

「そうだな」

「食事はケアマネさんに弁当の配達を手配してもらった、それで毎日様子を見てもらって何かあれば俺か君枝に連絡が来るようにしたから」

 若くして出世した兄だが、こういう決断力はなく、結局私の決めたことに従うことになった。

 父の戻ってくるのを待たずに私は母に頼まれたものを持って家を出た、兄は今夜泊まって翌朝病院に寄ってから帰るからと言って一緒に病院には戻らなかった。

 病室の入口に来ると母と君枝の声がした。

「この写真、何歳の時ですか?」

「そうだね・・・坊主頭にしているからたぶん中学で野球をやっている頃かねえ」

「へえ、以外と顔は変わっていないですね」

「もっと小さい頃は色白で可愛かったけど、この頃は生意気でねえ」

 私は一度喫煙所まで戻ってタバコを吸って時間を潰した、看護師たちが君枝のことを実の娘だと思っていたらしいと聞いていたが、娘を欲しがっていた母にとって今は君枝を実の娘のように思っていてくれるのだろうか・・・そんなことを考えていた。

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