君との出会い
【お願い】
本小説には以下の要素が含まれます。
苦手な方はご注意下さい。
・ゴミステリー要素アリ
・ミステリークオリティゼロ
・推理内容ゴリ押し
これらが苦手な人は今すぐにブラウザバックをして私の他の小説や他作者様の小説をお読みください。
それでも進むのならば本編へどうぞ。
本が友達という人は案外身の周りに数名居たりするだろう。おそらくこの本を手にした人が三人いたとするならば、そのうちの一人はこの意見に納得してくれるだろう。無論この意見には俺も納得する。それは提唱者でもあり俺こと長岡祐太郎がそれに分類されるからだ。
どうにもこうにも、俺は本さえあればよかった。高校生にもなって友人は大して居ないのが現実だ、中学時代には部活動に属することなく三年間帰宅部、新しい友人と付き合うことは大してなく、昔からの友人としか今も付き合っていない。
それが今向かいに居る男、新川春人である。
「いやいや、そんな事は無いと思うよ。少なくとも十人の内一人じゃないかな」
ならば訂正しよう。十人の内一人が前述の意見に納得してくれるだろうと。
「と言っても、今のご時世本を読んでる人なんてあまり見かけなくなったな」
「そりゃそうさ、今の皆が多く手にしているのはスマホだ。電車の中やバスの中、終いには歩いていてすれ違う人の内八割がスマホをいじっているように思える。
それに、スマホは便利だ。一昔前なんて書物を手にした学生や社会人を多く見かけたものだけど、今となっては電子書籍化されてスマホで本が読めちゃう時代だし、まず根本的に若者の小説離れが著しく見える」
長々と春人は俺に対して現代社会の状況と小説を関連付けた説明をしてくれた。仮に現代文のテストで「今の若者が小説から離れている理由を説明しろ」なんて問題があったらコイツは間違いなく模範解答として先生に褒められるだろう。仮に俺が教員側だったらそうしているに違いない。
「それはそうと、ユータローは聞いたことあるかい?」
「何をだ?」
「アレだよ、その…」
紹介者のお前が覚えてなくてどうする。
「ユータロー、何か言ってくれないか?それを種に思い出せるかもしれない」
「なんでもいいのか?」
「うん、なんでもいい」
少し考える。そして導いた言葉は。
「寿司」
「……ユータロー、それは今君が食べたいものじゃないのかい?」
無論そうだ、なんでもいいって言ったのはお前だろうに。
「あっ、思い出した!」
その声は放課後の無人の教室に響いた。
「それで? 話ってなんだったんだ?」
「一つの噂だよ、この学校にはもう一つ図書館があるってね」
ほう、噂には興味は無いが聞くとしよう。俺は読んでいた文庫本を閉じた。
「それじゃあお聞き願おうか。まずは図書館が二つあるという噂が立った理由だけど、とある生徒が見かけたのさ、本を運ぶ司書さんの姿を。その司書さんが運んでいたのはいくつかの文庫本だった。図書館は第四校舎にある、だがその司書を見かけたのは第二校舎二階の端くれ、まさに第二校舎の秘境と呼ばれるぐらい人がいない場所なんだ、だから故に整備が行き届いていない箇所がいくつかある。位置関係としては…こうかな。」
そう言って春人は随分前に配布された手紙の裏紙に位置関係を詳しく記してくれた。
そういえばコイツに隠してた事があるが…コレはこの話を聞いてから話そう。
「それでね」
指をさしながら解説が始まる。
「その生徒は第二校舎の北階段から南階段側のとある教室に忘れ物をして取りに向かっていたんだ。それでその途中に司書さんとすれ違った。おかしいなって思った生徒は後ろを振り返ると司書さんは居なかった、その代わりにとある部屋のドアが開いていたんだ。立ち位置の都合上内部はよく見えなかったけど、床は今の校舎の床とは少し違う古いような床だったらしい。ユータローに分かるように説明するならば中の技術室や美術室のような木材を使った床だったらしい。それに少し大型の棚があったらしいよ」
少し整理の為に間を空ける。
「北階段から南階段の教室に物を取りに行ったのならば疑問に思う事が一つあるんだが、それはお前もそう思うか?」
「そりゃそうさ、仕入れた時には少し疑問に思ったが結論は出せなかった。」
その謎の部屋があるのは第二校舎の二階、校舎を鳥瞰すると口の字になる。
おかしい、わざわざ遠回りしてまで行く必要があるのか、それに第二校舎の二階は空き教室で溢れている。というのも選択科目でしか使わないような教室しか無いからな。だからあそこを通るのもおかしい話なんだ。あのフロアで部室として使ってる部屋は無い。仮にトイレに行ったのならばそれもおかしいんだ。第二校舎は教室が多い為、トイレが各フロアに千鳥配置されている、しかも階段側に。よって放課後の奥には何も無い空間しかない。
「どうも引っかかるな」
「じゃあ検証でもしに行く?」
面倒だが気になってこのままでは夜も眠れまい、仕方ないか。
俺は重たい腰を上げて学校指定の通学鞄を持ち俺たちがいる第一校舎から第二校舎へ向かう。俺たちはわざわざ第一校舎の階段を降りて外へ出て第二校舎へ移動する。面倒だ、学校側に連絡通路の建設を求めたいものだ。
「やっと着いたな」
移動時間は大してないが、アップダウンを考えたらそれ以上の運動をしている気がする。
とりあえず誰もいない第二校舎の二階に着いた。春人は生徒会の連中に捕まって連行された。故に今は俺一人だ。
さてと、検証を始めるか。
状況は変わらない、ただ無人の教室が並んでいるだけだ。まずはその生徒が歩いた道を辿る。春人が言うとこの教室がそうだが、廊下側は壁だった。その部屋の大きさは一般教室二つ分だろう。扉にはカーテンがかかっている、それにしてもわざわざ生徒がなぜ遠回りしたのか。
考えてみたら答えは単純だった。蛍光灯が新しくなってる、どうやら近いうちに蛍光灯が交換されたみたいだ。それが仮にその日に行われていたのならば遠回りしたのも都合が良い。日付が分かれば交換日と照らし合わせて事実関係を確認出来るのだがそう言うわけにもいかない、なんせ日付が分からない。
まぁ、無理矢理かもしれないが現状はコレが答えだろう。後日に答え合わせでもしてみるとしよう。
俺は南階段から降って帰宅しようとする、だが足を止める。足音がする、どうやらこのフロアのようだ。それに例の部屋の辺りに人影が見えた。窓が汚くて見えにくいが…多分女子生徒だ。
あっ、こっち見た。
俺に気付いたのかこちらに向かってくる。北階段の角からその姿が見える。女子生徒、身長は…低いな。近づいて分かったが二年生、つまり先輩だ。
「そこの一年、少し手伝って」
断る理由が無い、帰りたいって言って断っても良いが多分帰宅時に罪悪感にかられると思う。
「はい」
俺は連れて行かれる、例の部屋へ。その女生徒は例の部屋の鍵を開ける、俺たちからしたら謎に満ちたパンドラの箱が開かれたことになる。中には春人や噂通りに書架が並んでいて少し手狭な図書館だった。
「そこの本を取って欲しいの」
梯子を使えばいいんじゃないのか、って言ってしまえば失礼だろう。なんせ梯子が小さい、梯子っていうよりも台って感じだ。
「この本ですか?」
「そうそう」
目的の本を手にする。あぁ、この本なら読んだことある。確か映画化されてた有名ファンタジーシリーズの第三シリーズだった気がする。内容まではいまいち覚えてないが魔法が関連してたはずだ。
「ありがとう」
「どうも。まさかこんな部屋があったなんて」
俺は部屋を見回す。どちらかというと図書館というよりも休憩室に書架を詰め込んだ感じだろうか、その名残に入り口側にガス台や水道がある。机の上にはマグカップがありほのかに香る紅茶の香り、もはやここはこの人のフリースペースなのではないかと思う。
「凄いでしょ、ここに入れたのは司書さん以外あなたが初めてよ」
「初めてって、なんで入れてくれたんですか?」
まぁ、そこにたまたまいたからと言うだろうと思ってた。だが、そうとはいかなかった。
「前から君には興味があったのよ、あなた毎日の様に昼休みに図書館で本を読んでたでしょ?そのあなたがたまたまそこにいたから声をかけたのよ」
さいですか。
「それじゃあ俺はここで失礼しますね、紅茶が飲みかけの辺り読者を楽しんでいたでしょうから」
俺は荷物を持って部屋を出ようとする、だがそれを止められた。
「待って」
俺は動けなかった。それは彼女が怪力だった訳じゃない、振り切れば動けるのだが、今はそう言う感覚ではなかった。なんというか、拘束されているような。不思議な感覚だった。
「これからも、本が取れなくなっちゃうかもしれないから。この部屋に入っていい権利を与える」
それを聞いた時は少し呆れたが、学校にフリースペースが持てるのは良いかもしれない、教室は活力に溢れててどうも息がしにくい、だから図書館に行くのだが、図書館にも飽きてきた頃合いだし、ちょうど良い機会だ。
「分かりました、ありがたくその権利を頂戴しましょう」
この日、新たに友人が出来、フリースペースが生まれた。
「そういえば自己紹介がまだだったね、私は志摩夕月。」
「俺は長岡祐太郎です」
互いに自己紹介を済ませる。この時に本が大好きな先輩と本が大好きな後輩のヒミツの関係が生まれたことになる事をこの後先輩に教えられた。
翌日より、俺は例の部屋に居た。昼休み、先輩と弁当を共にしている。
「長岡君はどんな小説を読むの?」
「急ですね。そうだなぁ…ライトノベルだったり推理小説、ミステリー小説とか色んなジャンル読みますね」
「意外だね、でも確かに図書室で読んでる時には色んなジャンル読んでたね」
そこまで見られていたとは・・・気付かなかった。
「先輩はどうなんですか?」
「私? そうだなぁ・・・ライトノベルとかかな。あとはファンタジー物だったり、君と同じミステリーにも興味があるかな、って言ってもまだ呼んだことないけど。」
まぁ、昨日取ってっていっていた本のほとんどがファンタジー物だったし、メインはファンタジーと言った感じだろうか。俺と似た系統の小説を読むことが分かっただけ話の種が持てたとしよう。俺はそう思いつつ弁当のふたを閉じる。
そして持参した文庫本を手にとり続きから読み始める。今読んでいる文庫本(※)はライトノベルなのだがこれがまた面白い。内容は高校生が恋した相手は女子高生ではなく二七歳のOLだったと言う感じだ。俺が今まで読んでいた恋愛小説の中で多分上位を独占していると思うから是非読んでみると良い。
なんて後半の一部を省いたものを先輩にも説明した。理由の説明は必要ないよな。
「それにしても、この小説の書きはじめには共感できるなぁ」
「そうですよね、『古今東西、お姫様は一目惚れが多すぎると思う』なんて、共感しか出来ないです。何で交際期間ゼロで結婚に至れるのかが理解できないんですが、そこはファンタジーですし許容するとしましょう」
確かにその文面を見た者は全員とは言わないがほとんどが納得すると思う。そんな事言う主人公までもが一目惚れをしてしまうなんて公然の秘密。
意識してない時間の流れはあっという間だと誰かが言っていた記憶があるが、その言葉は本当だな。気付けばもう五間目が始まる時間になっていた。
「それじゃあそろそろ戻りますね」
「うん、また放課後ね」
そして部屋を出る。閑散としたフロアには昼休みながら人の姿が見えない。だが声は聞こえる。その発生源は第二校舎の内側に設置された中庭からだ。女子生徒が数名お菓子パーティーを楽しんでいるのが見えた、こう天気が良いとそういう事もしたくなってしまうよな。そんな女生徒達を横目に俺は弁当箱と文庫本が入ったトートバック片手に教室の或る第一校舎に戻る。戻る頃にはギリギリと言った所だった。
「ユータロー、何処に行ってたんだい?」
「あぁ、ちょっとそこまでな」
俺はありがちな言い回しで誤魔化す。あえてこいつには例の部屋のことは言わなかった。ただ答え合わせだけは済ませておく事にした。
「あの噂のことだが、日付はいつなんだ?」
「おっ、それが掴めたのならば答えが見えてきたのかい?」
「無論だ、それでいつなんだ?」
「えっと、話を聞くに・・・五月の十七日木曜日だよ」
やっぱり、昨日に導いた説が正しい事になる。
「あの日にあのフロアの蛍光灯が交換されてたんだ。しかもここだ」
そういって昨日春人が渡した大雑把に書いた地図を指差しながら言う。
「それで、脚立を使いながら作業をしていた。あの用務員は心配性で、わざわざ通路を閉鎖して交換作業を行う、それはお前も分かってるな」
「そりゃ勿論、だがそこまで心配性とは思わなかったよ」
「それであの通路を閉鎖して迂回路としてあちら側の道を歩く事になった。」
多分その推理で間違いはないはずだ。
「おお!流石はユータローだ。正解だよ!」
正解?まさか・・・。
「これはお前が考えたなんてないよな」
「あら、そこまで見破られてしまうとは。正解さ、これは事実を基にした僕が作った一つの謎解きだ。」
「じゃあ!あの図書館は!?」
「いや、あれはただの噂さ。存在するのかもしれないし、存在しないのかもしれない。僕は生徒会を勤めてるけど第二の図書館の存在は聞いたこと無いね。でもあったら面白いと思うけどね」
こりゃ驚いた。あれはこいつが作った謎解きだという事はどうでも良い。それよりもこの噂の真相を知る者は数少ない事を知る事になった事と俺がその知る者の内の一人だという事を今初めて知ったことだ。あと追加するとするなら既に授業が始まっており先生の怒りを買う事になった事だろうか。
そしてハチャメチャな五間目は終わりを告げ、破天荒な六間目も終わり放課後に入った。春人は生徒会の活動で早急に生徒会室に向かった。俺も例の部屋に向かう事にした。
俺は例の部屋に入ろうとした時、ほのかに甘い香りがした。バターの様な焼き菓子だろうか。いざ入ると室内の換気扇が回っていた。
「いらっしゃい、クッキー焼いたんだけど食べる?」
「イイですね、戴きます」
この短時間でクッキーを焼くとは…。
「先輩、もしかしたらかもしれませんが。午後の授業サボってませんか?」
「あら?どうしてそう思うのかな?」
「これはあくまで俺の推理です、所々間違いがあるかもしれないです…」
「ふ~ん、一応聞いてみようかな」
「ありがとうございます。
まず初めに、昼休みの時に俺は授業が始まるギリギリに戻りました。俺は先輩が何組高は分かりませんが、二年生の教室は第三校舎の三階もしくは二階。あの道のりをギリギリで戻るのは無理があります」
「ふ~ん、でも分からないよ? もしかしたら遅れて授業に参加したかもしれないよ?」
「それこそあり得ません。俺こう見えて料理の知識が多少あるのですが、クッキーを作るうえで一つの工程として生地を寝かせる事があるんです。それにクッキーを頂いたときに少し温かかったんですよ、そこから逆算すると少なくとも六限の間では焼けないんですよ。それに部屋に入る時にクッキーの甘い匂いがしたんです、それに入った時に換気扇が回っていた辺り、この匂いを何とかしたかったんでしょう」
「甘いね、世の中には短時間で焼けるクッキーもあるんだよ…あっ…」
「なに自分から午後の授業さぼったこと言ってるんですか…」
結論、少なくとも六限はさぼったようです。
「五限目は間に合ったんですか?」
「ううん、間に合わなかった」
何やってるんですか…。
「実際のところほぼ長岡君の言う通りだよ、少しびっくりしちゃった」
「それにしても、このクッキー美味しいですね」
甘い物好きの俺には大分有り難いし、どうもさっきの外で嗅いだ時からもう体はクッキーを食べる気分だった。
「それは良かった」
それから、口の中は甘いクッキーで幸せ、俺も甘い物が食べられて幸せと言うWin-Winの関係が成立した俺は、昼休みに呼んでいた小説を読み切り、少しばかり狭い初夏の間の通路にて新しい本との出会いを求めている。
「主に小説が多いみたいですね」
「うん、どうも小説だけがこっちに流されるんだよね」
「そうなると先輩には宝の山じゃないですか」
「それは君にも当てはまるんじゃないかな?」
「間違いないです、少なくとも図書館の時より楽しいです」
確かに宝の山だ、市民図書館や学校の図書館とは系統が違う訳でもない、現に俺の目の前にある
ミステリー小説は市民図書館にある。借りるならそっちの方が状態も良く、手に取った時に小さな埃を気にしなくても済む。だが俺はそちらよりもこちらの方が良い気がする。否、ここが良いと思う。
「良い本は見つかった?」
先輩が書架の向こうから隙間を通してそう問うてくる。
「えぇ、出会えましたよ」
「私も出会えちゃった…かな?」
「どんな本ですか? 教えてくださいよ」
「だーめっ、教えな~い」
隙間からチラッと見えた先輩の笑顔に、俺は心惹かれた。
そう、つい昨日の放課後に本を通して知り合った。この小さくて大きな先輩に俺は。
恋をしたのだ。
続