100文字小説 1-10
一
「ずっと好きでした。ボクと付きあってください」
彼女を屋上に呼びだして告白した。
「ごめんなさい。あなたのことは友達としては好きだけど、わたしは彼氏がほしいの」
セーラー服の下でボクの胸が傷んだ。
二
「俺はあの子の未来を奪った……」
命を助けたるために医者になったはずなのに。
「ありがとうございました。これで安心して生きていけます」
中絶手術をおえた母親の清々しい顔が、俺の脳裏に焼きついて離れなかった。
三
今日も同じだ。七時三分発の電車。三番目のドアのそば。彼女はいつもそこに立っている。こっちをチラチラと覗き見して、片思いの相手を前にして照れているようだ。
改札を抜けた。人目がなくなったところで声をかけた。
彼女は交番へ駈け込んだ。まったくシャイな女だ。
四
三階の職員室に近いトイレは〝出る〟という噂がある。
わたしたちは、夜の学校に忍び込んで確かめることにした。
一番奥のトイレをノックした。
トン、トン。
扉が開いた。中から校長先生が出てきた。
五
川に流されながら、もうすぐ死ぬんだなって思った。なんでだろう、苦しくない。パパとママ、怒るかな? ごめんね。お姉ちゃん、いつもワガママきいてくれてありがとう。
気がつくと、わたしは病院のベッドにいた。みんな、私の顔を見てうれしそう。手術は成功したらしい。
六
真夜中にとつぜん起こされた。今からハイキングへ行くから準備をしろとママが言う。
「どうして? こんな時間にどこにいくの?」
ママはリュックに着替えをつめ込み、私の手を引いた。目のまわりには痣があった。ああ、またパパにぶたれたんだ。
七
イルミネーションなんか嫌いだ。
「いいじゃないか、たまには父と息子で水入らずってのも」
ガキだった俺は周りのカップルを見たら恥ずかしくなって、親父をおいて帰ってしまった。
次の日、親父は死んだ。
イルミネーションなんて大嫌いだ。バカな自分を思い出す。
八
二人の怒れる女が男の腕を綱引きのように引き合っている。
「たっくんは、わたしとケッコンするんだもん!」
「わたしとのヤクソクのがさき!」
「じゃあ、たっくんにきめてもらいましょ」
「ねえ、どっちにするの?」
我が息子は四歳にして女のこわさを知った。
九
このきもちはミルクコーヒーのようなもの。
まだ二十歳だと甘えていたい幼稚な白と、もう大人だというほろ苦さ。
「僕に妻がいるのは知ってるよね」
そう言いつつも、教授は私の目を見つめた。わかってるよね。それでもいいなら……。その目はそう言っていた。
十
認知症の妻がぶちまけたケチャップを俺が拭いていると、やってきた隣人が勘違いした。
「……お前の苦労は誰よりも知っている。よし、こういうことにしよう。奥さんは転んで喉にフォークを刺したんだ。裁判になったら証人になってやる」
俺は寝ている妻の元へむかった。手にはフォークを持って。