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100文字小説 1-10

作者: 緋片 イルカ

「ずっと好きでした。ボクと付きあってください」

 彼女を屋上に呼びだして告白した。

「ごめんなさい。あなたのことは友達としては好きだけど、わたしは彼氏がほしいの」

 セーラー服の下でボクの胸が傷んだ。


「俺はあの子の未来を奪った……」

 命を助けたるために医者になったはずなのに。

「ありがとうございました。これで安心して生きていけます」

 中絶手術をおえた母親の清々(すがすが)しい顔が、俺の脳裏に焼きついて離れなかった。


 今日も同じだ。七時三分発の電車。三番目のドアのそば。彼女はいつもそこに立っている。こっちをチラチラと覗き見して、片思いの相手を前にして照れているようだ。

 改札を抜けた。人目がなくなったところで声をかけた。

 彼女は交番へ駈け込んだ。まったくシャイな女だ。


 三階の職員室に近いトイレは〝出る〟という噂がある。

 わたしたちは、夜の学校に忍び込んで確かめることにした。

 一番奥のトイレをノックした。

 トン、トン。

 扉が開いた。中から校長先生が出てきた。


 川に流されながら、もうすぐ死ぬんだなって思った。なんでだろう、苦しくない。パパとママ、怒るかな? ごめんね。お姉ちゃん、いつもワガママきいてくれてありがとう。

 気がつくと、わたしは病院のベッドにいた。みんな、私の顔を見てうれしそう。手術は成功したらしい。


 真夜中にとつぜん起こされた。今からハイキングへ行くから準備をしろとママが言う。

「どうして? こんな時間にどこにいくの?」

 ママはリュックに着替えをつめ込み、私の手を引いた。目のまわりには痣があった。ああ、またパパにぶたれたんだ。


 イルミネーションなんか嫌いだ。

「いいじゃないか、たまには父と息子で水入らずってのも」

 ガキだった俺は周りのカップルを見たら恥ずかしくなって、親父をおいて帰ってしまった。

 次の日、親父は死んだ。

 イルミネーションなんて大嫌いだ。バカな自分を思い出す。


八 

 二人の怒れる女が男の腕を綱引きのように引き合っている。

「たっくんは、わたしとケッコンするんだもん!」

「わたしとのヤクソクのがさき!」

「じゃあ、たっくんにきめてもらいましょ」

「ねえ、どっちにするの?」

 我が息子は四歳にして女のこわさを知った。


 このきもちはミルクコーヒーのようなもの。

 まだ二十歳だと甘えていたい幼稚な白と、もう大人だというほろ苦さ。

「僕に妻がいるのは知ってるよね」

 そう言いつつも、教授は私の目を見つめた。わかってるよね。それでもいいなら……。その目はそう言っていた。


 認知症の妻がぶちまけたケチャップを俺が拭いていると、やってきた隣人が勘違いした。

「……お前の苦労は誰よりも知っている。よし、こういうことにしよう。奥さんは転んで喉にフォークを刺したんだ。裁判になったら証人になってやる」

 俺は寝ている妻の元へむかった。手にはフォークを持って。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お邪魔致します。 一、二、三、六が秀逸でした。 これからも頑張ってください。
2019/02/19 09:38 退会済み
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