第二部 牛と馬なら馬乗りたい
大変遅くなり申し訳ありません。
こんな感じでノロノロ書いていこうと思います。
あと第一部の話を大幅に改めたので先に読んでからこの話を見てください。
「そろそろ博多に着くが今回は何が欲しいんだ」
佐久良の肩に手をかけ一人の男が声をかけてきた。佐久良には小さい頃から特に仲の良い五人の友達がいた。この男もその一人で九麻といい、佐久良の三つ年上になる。九麻は槍を持たせれば佐久良に引けを取らない腕の持ち主で今回は護衛を主に担当してついてきている。他の四人は佐久良の居ない間の博多の拠点で待機をしている。
佐久良達は商いの拠点を博多の湊周辺に移すにあたって、新参者なため場所の確保に手間取った。そのため湊から離れたところしか拠点がおけず留守の人を残しとかなければ蔵の中の商品や米、布が強盗に遭うこともある。実際に初めの頃に何度か盗賊や新参者をよく思わない人などに襲われたことがあったが、相手が少数で、こちらも常に数人は蔵を守ってたので被害を抑えることが出来た。それが毎回上手くいくとも限らないので最近では十分な人数の護衛に装備を与えて残している。
「そうだな、最近は商いの量も増えたから荷車を引いてくれる馬なんかが欲しいな」
「そりゃ、いたら楽だがそんなもん手に入るのかね。牛なんかを買ったほうが安く済むんじゃねぇか?」
九麻の疑問はもっともなもので、日本では近代まで馬車というものはなく主に牛が引く牛車が主流だった。さらに馬は貴族などの乗馬用として育てられるのがほとんどなため目にすることはほとんどなかった。逆に牛は食用だったり農耕用として百姓でも持っていたりする。それでも大事な労働力なので簡単に売ってもらえるものでもないのだが。そんな事情から馬より牛が馴染み深く、どちらかといえば手に入りやすいが、その辺は佐久良がすでに手をうっていた。
「この間新羅の難破船に乗ってた貿易商を保護したろ」
新羅とは朝鮮半島にある国でこの頃は仲が良く、互いに遣新羅使を送ったり、使節を送られたりの交流がたくさんあった。しかし、この頃の日本は様々の国々と外交を交わしていたが国内での商売という概念が発達してなかったため、私的な貿易を許していなかった。それでも大陸の商人とは逞しいもので日本への使節に同行しては湊の人々と物々交換をしたり、密かに入国しては取引をしてたのだ。
そんな商人の一人を三か月程前に博多の周辺で佐久良達が保護していた。その頃の佐久良は造船の技術を欲していたので船を造っては近海に出て操船の練習をしていた。そんな中で偶然にも難破船に遭遇し保護したのだ。
その結果、日本海の荒波に耐えうる造船の技術と大陸商人との伝手が出来た。その商人は佐久良達に大層感謝しており、三か月後に佐久良の欲しいものをもって来ると約束してくれたのだ。そのことを九麻に話すと納得したように頷いていた。
「どうりでガメツイお前が椀飯振舞だったわけだ。そんな下心があったとは」
「酷い評価だな。まぁ、それは間違いではないがな」
そう言っては二人で大きく笑い、それを聞いてた他の人たちまで笑っていた。ひとしきり笑った九麻は声を潜めながら話しかけてきた。
「馬なんて高価なもん、ただ荷を引かせるだけじゃないだろうな」
その言葉にニヤッと笑みを浮かべた佐久良は前を見据えた。
「当たり前だ。五人には話したが俺の目標は商人なんかじゃねぇ。成り上がることだ。そのためにはあらゆる力が必要だ。馬なんかは使えるとは思わねぇか?」
九麻はそこで獰猛な笑みを浮かべて肩にかけていた槍を持ち上げ振り回した。
「大陸の戦について調べたことがあるから馬の重要性は分かるさ。俺の担当はこっちだからな。楽しみで仕方ない」
「あんまり期待するなよ。今回手に入る馬は多分だが小型だよ。俺たちが乗って暴れられるようになるのはもっと先さ」
「なら、お前に教わったように馬を改良していけばいいわけだ。いつかでかい馬を作ってみせるさ」
「野菜やメダカのように簡単にはいかんだろうがな」
この時代でも品種改良に近いことは行われている。しかし、偶発的にできた物を選び次にそれを育てるだけで、目的をもって改良することは少なかった。そこでメダカや野菜を使って簡単に出来る改良の方法を本にまとめてそれを元に皆で研究をするようになっていた。そのおかげで村の稲は普通よりも病気に強かったり、多くの米が出来たりしている。
佐久良はアジアの馬はヨーロッパの馬のように大きくないことを知っているため、自分たちで育てて大きくしていくつもりだった。目指せ、日本版サラブレットっといったところだ。
この話の後には他愛もないことを話しながら歩き続けた。すると、とうとう町が見えてきた。こここそが博多の街だ。