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「どうすんのよ、これ」

「うぇ、かはっ、げほ」

 村のはずれの誰もいない川辺、そこには吐瀉物を吐き出す神殺しの少女と、面白さに釣られて干渉したことを若干後悔しかける俺がいた。


「ほら、飲めよ。いや口を濯ぐのが先か?」

 かと言ってそのまま放置しているわけにもいかないし、とりあえず交流の証ってことで水筒から注いだ水を彼女に差し出す。


「で、どうしたんだ? 神殺しさんは」

「もうさ、何やっても心が傷むんだ」

 あー、なんだか面倒なタイプだね、この子。面白さと面倒くささ、どっちが上だろう。そんな比較をし始める俺を前に、こぼれた弱さを止められないのか神無ちゃんは腹の底から絞り出すような声で思いを吐き続ける。あっ、流石にリアルに吐く方は止まっているよ、彼女の名誉のために言っておこう。


「人間は嫌いだ。助けても化け物呼ばわり、そうじゃなくても人間同士で虐げ合ってる。そんな奴らの為に神を殺す時の感触なんて思い出すだけで自分で自分が気持ち悪くなるのにその時には身体が勝手に動いているんだ。それにもし見捨てたとしても後悔する。どうやっても辛いよ」

 途中まで面倒くささの方に傾きつつあった天秤がなぜか「辛いよ」という少女の言葉を聞いたときに、違う方向へと傾いた。面白さとはまた異なる3つ目の方向に。


「そういうときはさ、何か一つでも理由があれば動く、それでいいんじゃないか」

「理由? だったらないよ。見捨てても後悔するだけですむ。助けても辛い思いをするんだったらどっちにも違いはないもん」

 その傾いた思いに従うままに彼女をフォローするような言葉をその場で思いつくままに言ってみる。神無ちゃんはそれを否定したけど、それは認めたくない。

  

「どっちにも違いがない、そう分かっているのに悩むんだろう? 身体が勝手に動いているんだろう? だったら助けたいって衝動があるんだよ君には。そしてその衝動はとても大切な理由だ」

「これも大切な理由?」

 屁理屈だと自分でも思う。でも、なぜかそこに悩み、辛さを感じる少女の想いを無駄なものだと否定したくない俺がいる。


「確かにそうかもね。どっちでもよくないからきっと私は戦っちゃうんだ」

 少しだけ安心したようなその笑顔、それはとても綺麗でいつまでも見ていたいと思うものだった。と同時に俺も先ほど迷っていた問題に答えを出し、彼女に宣告する。 


「ってわけで俺もついていくから?」

「へっ?!」

 神無ちゃんは予想外だったのか、言葉に間の抜けた声を漏らす。


「君面白いんだよ。神殺しなんて力を持っていて、そんなふうに思い悩んで必死にあがいていくとことかね」

「人が悩んでいるのを面白いって、お前! ついてくるなッ!」

「はっはっは。あいにく俺は面白いものの次に嫌がらせも大好きなんだよ」

 俺は半分だけの本音を口にして、逃げる彼女を追いかけた。


「変態! ストーカー! やっぱり変質者じゃないか!」

 ぼろくそ言われているけどそこまで本気で走っている様子がないから多分同行を認めてくれたんだって思っておこう。俺たちの旅はここから始まる。

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