表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/48

1-5

「焔様が!?」

「嘘だっ!」

「化け物っ!」

 飛び交う怒号、侮辱、晒される嫌悪、恐怖の視線、神無ちゃんはそれらを一瞥し、表情を曇らせていたが、すぐに顔を逸らし、焔の遺体のそばにしゃがみ込み何かを探すような動作をみせた。数秒後何かを懐に入れ立ち去ろうとしたが


「待ちなさい!」

 突然襲い掛かる斬撃、それに対してやや反応が遅れた神無ちゃんの髪が数本飛び散った。


「あなただけは絶対に許さない! よくも焔様をっ!」

 襲撃者は焔の側近、朱莉ちゃんだった。


「あなたに用はない」

「逃がさないっ!」

 そのまま逃げようとする神無ちゃんだったが、即座に次の攻撃が襲い掛かり、回避できないままナイフで受けた。いや受けられずに吹き飛ばされ、武器をその手から落とした。


 神無ちゃんは吹き飛ばされた方向へとそのまま逃げようとするが運悪くその方向は焔が座っていた玉座であり、壁だった。まるで死した焔の怨念とでもいうかのように神無ちゃんの退路を塞ぐ。

 前門の朱里ちゃん、後門の玉座。横から逃げる隙もない。

 そして先ほどの言葉が本当なら神無は人を殺せない。いやそれだけじゃないだろう。ここまでの見た行動や更に未だに反撃に出る気配がないのを見る限り、殺せないだけではなく攻撃することすらできない可能性まであるんじゃないだろうか。


「こうなったら……」

 神無ちゃんは覚悟を決めたように朱莉に向って走り出した。朱莉ちゃんも俺が思ったのと同じ考えに至ったのだろう。彼女は防御も回避もせずに神無を殺すべく斬りかかる。


 神無ちゃんはそれを跳躍して回避し、朱里ちゃんの肩めがけて蹴りを放った。

 ここまで見たことによるもう1つの仮説として、『神無ちゃんの攻撃は神以外に行った場合その反動が全て彼女に返ってくる』ようなものがあった。焔の元へと浮かぶ最中に攻撃したときの反動による身体の移動は相手にダメージがないのにもかかわらず大分大きかった。

 そして、それを前提に考えればこの行動は朱莉ちゃんを蹴る反動を利用してそのまま飛び越えて逃げようとしたのだろうが


「何っ!?」

「攻撃が通った?」

 飛び蹴りが直撃した朱莉ちゃんの身体は若干よろめき後ろに下がり、神無ちゃんはさほど跳ぶことができず、依然として退路が開けぬままであった。

 朱莉ちゃんが攻撃を受けないと思い込んでいたが上に動揺を隠せずにいる一方、攻撃が通ってしまったがために反動が少なく玉座を超えることができなかった神無ちゃんは逃走経路の練り直しているのかやや距離を取るように後ずさっていた。


(神の力を授かっていたか?)

 神を殺せる、その定義が分からない以上これもあくまで推測でしかない。ただ神を殺せるということの意味が神と判断される何らかの要因に依存するのだとすれば、神本体だけでなく、その力を持つものも殺害、もしくはそれが無理でも攻撃が通るのかもしれない。

 あまり多いケースではないが、神が人に己の力を分け与えることがある。もし焔が誰かにそれを行っていたとすれば、側近としてそばに置いていたと思われる朱莉ちゃんでもおかしくはない。

 もっとも朱莉ちゃん自身にその自覚がないのか、そこまでの力を分け与えられていないのか、彼女が見せたふるまいは人間の領域を出てはいなかったけど。


 俺と同じ結論に至ったのか、それとも攻撃が通るという一点だけで判断したのか、いずれにせよ神無ちゃんは朱莉ちゃんを倒すことを選択したらしい。

 彼女は再度ナイフを拾い、最上段へと向かう際に見せた舞のような動きを再び披露する。

 振りおろされる斬撃、それを避けた朱莉ちゃんだがそこには既に神無ちゃんが待ち構えており、掌底により吹き飛ばされる。

 焔亡き後、彼女以外の誰も行動する気配がないことからして、この場に残った中で一番影響力が強いのはおそらく朱莉ちゃんである。よって神無はここさえ潰してしまえば、安全に逃亡することもできると見たようだ。

 ただし、一番影響力があるものに危機感を覚えさせるということは当然リスクがある。俺が観客でいられる時間はもうないようだ。


「くっ、何を見ている! 囲みなさい!」

「ハロハロー。どうもお久しぶりだね神無ちゃん」

 その攻防で自分と相手との実力差を思い知らされた朱莉ちゃんは近衛兵に指示を出していた。けどそれは遅いよ。

 割り込んだ俺の飛び蹴りで動き出そうとした近衛兵の1人が吹き飛んだ。


 いやあ、面白そうな催し物を見られるのがそろそろ終わりそうで更に勝算十分な形勢ならそりゃ割り込むよね、てへっ。

 ってわけで乱入してみました。これで神無ちゃんも俺に興味を持ってくれればもっと面白いものを観察できそうだしね。好感度も大幅アップでいいことづくめのはず。


「昨夜のバカ!?」

「ちょっ!? 助けてあげたのにバカはないでしょ」

 いやはや酷いなもう。ってかバカはどっちかというと自ら死地に入り込んで俺みたいな物好きがいなければ処刑されておしまいだった神無の方だと思うんだけどさ。

 まっ、信頼関係を築くにはもうちょいお手伝いしてあげる必要あるかな?


「さて、じゃあま、神無ちゃんが倒せない相手は俺に任せてよ」

 最初に蹴り飛ばした御遣いが落とした刀で残ったやつらをなぎ倒していく。そうそう一応言っておくとみねうちだよみねうち。殺そうって思っているわけじゃないし。骨の数本は折れたかもしれないけど。


「え、このバカ強いの?」

「何者なの、こいつ」

 俺が一撃で近衛兵や御使いたちを倒していくのを見て神無も朱莉も驚く。ってかだからバカは酷いって。でも十分でしょこんなんで。


「ほらほら、逃げるよー、神無ちゃん」

「えっ、ちょ、まっ」

 俺は脱出経路が出来たのを見て朱莉と向き合いながらも呆然としていた神無を抱きかかえて祭壇から飛び降りた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ