6-1
side 神無
「やっと、辿り着いた」
そこは天高く雲まで伸びた塔。襲がかつてある目的の為に築いたものだ。この扉の先にある階段。その次が最上階。あいつがいる可能性が高い。
決着をつける。そう思い身構えながら扉を開ける。
「よっ。遅かったな」
「なっ!?」
そこには複数の人間、先頭には
「ねえ、渡来。なんでここにいるの?」
「突然どうした? 決まっているだろ」
渡来がいた。その後ろには反杉、冬禰、春野などレジスタンスの人間もいる。
「はっきり言わないのは格好よさじゃないですよ」
「ああもう分かった分かった」
適当に言葉を濁そうとしたところに横槍を入れられて、一瞬うつむいた後こちらを向いて渡来は言った。
「お前を助けに来た」
ああ置いていったのに、自分から離れたのに。この言葉が嬉しい。
今なら何でもできそうなくらいに身体が軽く力がみなぎってくる。みなぎってくる?
「そんなわけはないんだ」
一つ違和感を見つければ次々に見つかる。
冬禰は重症を負ったはずじゃ?
ここの入り口は一つしかないのにどうやってここまで入ってきた?
そもそもこんな敵地で堂々と待っているはずがない。
―これは現実の後継じゃない―
「人の心に勝手に踏み入ってくるな!」
目を瞑って手に持ったナイフを振り降ろす。空間ごと切り裂くイメージを持って
そして目を見開いた時その場所こそ変わらないが、渡来たちは消えて
「あら起きちゃったの」
「お前は、誰だ」
ただ一人の露出の多い衣装を着た蠱惑的な女がいた。
「初めまして。辿だよ。以後よろしく。神殺しさん」
「さっきのはお前の仕業か?」
どことなく気配が薄い。けれども確かにそれは神のもので、しかも自分を神殺しと知っている。つまりこちらの戦闘意思に関わらず敵である可能性が高いということだ。
「そうだよー。お嬢ちゃんが起こりえると思える範囲でのいい夢見させてあげたのにどうして起きられたの? ここに来るまで連続で神を殺してきてほどよく疲弊していただろうに」
「なっ?」
私は辿が言ったように襲を追い、ここへ来るまでに3人の神を短期間で殺害していた。そしてその短期間で無理やり神核を体内に複数封印しようとしたがために体中が燃えるように痛み続けていた。それこそ夢の中ですら忘れられないほどに。
そしてそれがなかったことが最初の違和感だった。
「お前の力が足りなかっただけじゃない?」
「ま、いいよ」
指を絡めるようにぐるぐるを回しながら辿はこちらを観察するように覗き込む。
「それにしてもあの裏切者が復活したと聞いて調査しに来たら大変なもの見つけちゃった。神殺しとかそんな物騒なの作り上げちゃうなんて襲ちゃんも困ったものね」
「なんでそれを」
神殺しというだけでなく、私を作り上げたのが襲ということまで分かっている。裏切者ということは敵対関係にあるということだけどだからと言って襲の復活から私に繋がるのが早すぎる。
「お嬢ちゃんから引き出したい情報はある程度夢の中で辿らせてもらったの」
つまり辿が司るのは夢か記憶、それに近い何かだろう。直接的な戦闘能力は高くない可能性が高い。つまり先手を打てばそう考えた時には遅かった。
「さあ。お嬢ちゃん? もう一度眠りなさい。この世にお嬢ちゃんみたいな存在は許されないけど、夢の中だったらいつまでも可愛がってあげるわよ」
目の前には赤い霧が漂う。確かこの塔に来た時にも同じ霧を見た。きっとこれを吸い込むと眠らされるのだろう。
その霧は私と辿を分断するにとどまらず、私を囲いこむように広がり迫ってきた。




