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5-7

 私は買い物に行くと告げて朱莉を宿に残したまま、春野に待つと告げた村の外れにきていた。


「一人で来てくれて助かったよ」

「いえいえ」

 話しかけてきた相手はレジスタンスのリーダー反杉だった。


「ずっとつけられていたのは分かりましたからね。目的は私か彼女かを見極めるのに時間がかかりましたが」

 春野と別れた後、絶えずつかず離れずの位置に誰かの気配を感じていた。そしてこの村に入るとともに一瞬渡来の記憶にある人物が姿を見せてこの方向へ歩いていくのが見えた。


「にしても罠だとか考えなかったのか? 神喰いのお嬢ちゃんをわざわざおいてくるなんて」

「1つ、まず貴方に今害意がある場合貴方たちの勢力圏でわざわざ小細工をしてまで一人で来るかどうかも分からないおびき寄せ方をしない。2つ、私にだけ姿を見せたことから一対一で話したいことがあるように見えた。3つ……いえ」

 3つ目は他人からしたら根拠としては弱いしわざわざ言うまでもないかと迷ったが


「3つ目はなんだよ。そこで言いよどまれると気になるだろうが」

「そうですね。3つ、神無とこの体の宿主が貴方を信じていたらしいので」

 突っ込まれて別に隠すことでも同意を得られなくてもいいと思ったので素直に答えた。 


「っ? ははははは。傑作だ」

 それを聞いて本当に面白そうに反杉は笑う。


「馬鹿馬鹿しいですか」

「いんや。ちょっと意外だっただけだ。けど俺が猫被っていただけだったらどうすんだ? 俺があいつと手を組んでいたことなんて渡来も神無も知らなかったはずだが」

「全部が偽りの善意に騙されるほど神無は幸せに生きてこれていませんよ」

 あの子は、私が知っていた時にも渡来が出合った時にも、人も神も全てを嫌っていた。彼女の不幸は全て不運ではなくそれぞれの意思により産み出された必然のものばかりだから。


「もしそれでも騙されていたというのならその時はその時です。私は結びの神。貴方と彼女たちに結ばれた縁を信じます」

「OK。OK。腹の探り合いはこちらとしてはこれで十分だ。そっちからの質問があれば本題の前に答えるぜ」

 腹の探り合いと言いながらも楽しんでいたようにしか見えないが、言葉に甘えてこちらからもいくつか尋ねさせてもらおう。


「貴方はあくまであいつと協力関係、または共同態勢を取っているだけで別にあいつの部下とかそういうわけではないということでよろしいのですか?」

 人形出現時点ではあいつの配下や側近だと思っていたが、もしそうならレジスタンス自体を動かして襲撃されているだろう。気が付いていなかったのならまだしもこうしてトップが出張っている時点でそれはない。 彼個人、もしくは一部だけが繋がっているにしても、私が神である以上レジスタンスを自然に動かせるのだろうから彼の行動理由はそこにはない。


「まあそうなるな。あの人形どもも配置こそ許しているがそれだけだ」

「ならなぜあいつと手を組んでいるのですか? 神に歯向かう貴方たちが」

 考えられる理由は2つある。1つ目は武器などの資源を確保するためやむなく。そうでないとしたら


「あいつの正体、知っているんだろう? 『それ』がそのままの理由さ」

 そのもう1つの方だった。


「けど『それ』って矛盾していませんかね」

 『それ』は確かに彼が従う理由にはなるが、彼らの存在意義を否定しかねないものでもある。


「俺はただ、俺の目的を果たせればいいだけだよ。襲の思い通りにいけば俺たちの利になる。逆にあんたらにあいつが倒された場合、神殺しの神無が解放される」

 そこまで軽いノリで話していた反杉の目に力が入る


「いい人なのにお酷い人ですね、貴方は」

「割り切らなくちゃやっていけないもんでな」

 どちらに転んでも目的に近づく。そのためには神無も渡来に危険が及ぶことすら受け入れている。とはいえそこまでしないと彼らの目的は果たせないのだろう。


「もう十分です。ありがとうございました。本題をお聞きしましょう」

「本題っつてもまあなんだな」

 反杉は急に照れ臭そうに頭をかく。


「咲葉をよろしく頼んだ」

「えっ?」

 そう言って頭を下げた反杉に驚く。春野を託すことのためだけに来たらしい。


「わざわざそんなこと言うために一人で来たんですか。貴方達のところから離脱して敵対する可能性もあるというのに」

「一番あいつを可愛がっていたのは初芽だけど俺にとっても弟分というか息子みたいなもんというか。俺らのところに来てからずっとやる気なさげだったあいつがまた何かをして歩き出そうって思ったのならやらせてやりたいんだよ」

 反杉は本当に大切そうに語る。 


「ならせめてそれを直接言ってあげたらどうですか。貴方が敵だと思ったから止めましたがそういうわけでもないのでしょう」

「直接会ったら俺はいろんな立場からあいつを止めなくちゃならねえんだ。勘違いとはいえあんたが咲葉にしてくれた配慮は感謝してる」

 もしかすると一人で来たのもきっと他が関わったらこのような会話をできない状況だったのだろうか。


「あんたを応援する気はねえが、咲葉だけじゃなくて渡来と神無が無事に決着をつけられることは祈ってるよ」

 そう言って背を向けた彼は


「持ってきな」

 何かを後ろ向きのままこちらに投げて去って行く。これは彼と私の最初で最後の邂逅だった。

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