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5-2

 飛ばされた意識の先、最初に辿り着いたのは豪華な部屋。繋がっている朱莉から得た情報だとここは神無に殺された朱莉の主人、焔の一室らしい。

 そしてこの場面は彼女に「結びの力」が使われた直後、赤い宝石の指輪が作られたその時のはず。朱莉を通して映る光景に意識を向ける。


「ここにある焔の神気を全てその指輪に封じて、君の存在に結びつけた」

 浮かんできた光景、そこに私の力を朱莉に使ったであろう神の姿が映る。


 なるほど。そういうことですか。


 くっ


 1つの問題の解を察したところで視界がゆらいだ。


 おっといけませんね。私本位に考えすぎるとこの縁からはぐれてしまう。どうせ朱莉にはここで分かったことを教えてあげることになるでしょうし考えをまとめるのは後にして縁を辿りましょう。


 彼女が旅立つところまで見た後、指輪が光り、映像が飛ぶ。

 どうやら私が閲覧できるのは力が強く使われた部分だけらしい。


 完全でないし弱いところまでは追えないみたいですね。


 纏、懐かしい相手が朱莉の前にいた。正確には纏が憑依した少女であり、しかも話しているのは朱莉ではなく、そこを通した誰か。結びを悪用して上から使っているのだろう。

 朱莉自身の意識もぼんやりしている。


 そんな中頭に声が響く。 


―朱莉、喰らえ―

 

 そして朱莉が目の前の少女に噛みついた。


 本当に不愉快な使い方をしてくれていますね。あまり私情を交えてはいけないと分かりつつも怒りにまた縁からはぐれかけ視界が揺らぎかける。



 その後いくつかの記憶を辿った後、今私が借りている身体の持ち主と相対する場面に飛んだ。


 地形ごと薙ぎ払うような朱莉の圧倒的な力、これは嵐のものか?

 けれども渡来は時にはそれを避け、時には受け流し、更にはある程度勢いを殺してからではあるものの受け止めていた。

 

 それを幾度となく繰り返した後、ついに渡来が反撃に転じた。


 大振りの攻撃を潜り抜け、その勢いを利用して投げ飛ばす。


「大丈夫? って心配してあげたいところだけどそんな余裕こっちもなくてね」

 起き上がる朱莉の動きに注意しながら渡来が一息つくが


「さてそろそろ頃合いかな」

 起き上がった朱莉の様子を見て眉をひそめる。と同時に朱莉の意識が薄れ出した。纏の時同様にまた彼女の身体が奪われつつあった。


「なんだ、お前は?」

 そしてその変化を察したのか渡来は警戒心を露にして身構える。


「僕を忘れたのかい? 偶人」

 けれど朱莉が指を鳴らすと渡来の身体から力が抜けてしゃがみ込む。


「何……を?」

 必死に抵抗しようとするが動けないらしく、その間に朱莉の身体を操るものは彼の側に近寄っていく。


「お前は人形だよ。久々に人形遊びでもさせてもらおうか」

 朱莉が渡来に手を伸ばし、頭に振れた瞬間、朱莉の記憶に渡来の感情が入り混じる。

 

 絶望と恐怖と虚無が。あまりの負の感情に一瞬私まで吐きそうな気分になった。



 そこから意識を戻すと場面は渡来の身体を操った襲が神殺し、御堂神無を不意打ちし復活したうえで、神無と朱莉をそれぞれ瞬殺して去った後のところであった。朱莉はまだ受けたダメージゆえに動けず、そこから少し離れたところで御堂と渡来が相対していた。この時には既に私は彼の中にいた。いや、感情が流れ込んできた少し前のタイミングで既にいたのかもしれない。


「まさかお前と会ったことすらあいつの手のひらの上だったなんてね」

 御堂が悲し気に言う。  


「俺も知らなかったんだ、こんなことは」

 渡来は必死に弁明しようとしていた。流れ込んでくる感情は焦り、悲しみ、それと


「許してくれとは言わないよ。ただ――」

「来ないで!」

 神無の方に向かう渡来の足が止まる。心ではそちらへと向かおうとしているのに完全に動けなくなっていた。


「別に裏切られたなんて思ってない」

 渡来は言われた言葉をそのまま受け止められずに責めとして感じ絶望していく。

 あの子は当てつけや嫌味でそんなことをいう子じゃないのに。  


「だから私はあいつを殺す。これは私が神殺しだからじゃない」

 去り行く御堂をそのまま見送るしかできず、彼女が視界から消えた。

 自らの存在の否定、そしていつの間にか大切なものになっていた相手との信頼の喪失の二つのショックで彼は心を閉ざした。


 そしてなぜか彼の中にいつの間にか入っていた私の意識がこの体の表層へと押し出されることになった。


 

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