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もうどうにでもなれ。諦めが絶望が身体を支配しかける。
そんなときに低く力強い声が響く。
「急げ! もたもたしてると死ぬぞ」
反杉がレジスタンスも瑞の部下も嵐の部下も区別せず逃げるように誘導していた。
指揮官ゆえに今回は前線まではでないはずだったのに。この状況で命の危険も顧みず出てきたらしい。
しかもただ味方だけ助けるのではなくみんな救うとばかりに利害関係すら捨てて。
愚かだけどとても尊い選択で。
そうか。せめてあいつらが私にくれた重みにくらいは応えよう。
さっきも決めたじゃないか。冬禰の決意に、覚悟に、その重みに。
最悪の選択肢だろうが今回は選んで背負うと。
「御堂神無が欠片の戒めを解き放ち希う」
それは否定した力。自らの存在意義すら投げ捨てる選択。忌まわしきものへと縋る己の否定。
体内の神核に封じ込まれていた力を開放した。
そしてそのまま【風影】に捧ぐ。
「森閑の鋒鋩、轟木の下弦を行きて」
元々漆黒の弓がさらに暗き光を纏う。そしてその光は広がりながら矢へと到達する。
「傲慢なる虚実を射貫け!」
と同時に弓を引き絞る。放たれたちっぽけなその一撃は確かに暴走する瑞の右足を1本貫いた。
「ぐぅぅ!」
体が燃えるように熱い。私の身体に組み込まれた神核封印の呪い。それを緩め力を無理やり引き出した反動が来ている。
最近取り込んだものは言うまでもなく消滅間近だった神核まで一気に活性化し、体内で暴れていた。
このままじゃ戦闘なんてできない。だから
痛みも苦しみも絶望もまとめて封じ、神の成れの果てを殲滅する舞を踊る人形となろう。その心のスイッチを入れた。
「やっとこっちを見たか」
ダメージを受けこちらを危険と本能的に察したのか足を引きずりながら瑞が戻ってくる。
状態確認。二射目はまだ無理。神の力に耐性を持つ【風影】でも時間をおかずに連発すれば壊れかねない。
刀と剣を腰に携え、槍を構える。
「理性のない攻撃なんて今更当たらない」
どんだけ乱雑なものでもそこに意図がないのなら来るがままに動けばいい。もはや前足と化した右手が薙ぎ払われる。
それに飛び乗る、とその着地と同時に更に振り上げられる勢いを利用し、真横に跳ぶ。
「二本目」
そのまま左腕へと槍を突き刺す。と同時に槍が砕け散る。直接力を捧げなくても自らに神の力を引き出したこの状態で並の武器は一瞬しか持たない。
右足に続いて左腕が機能を失い、倒れこそしないものの瑞の巨体が沈み込む。
「三本目」
そのまま潰そうと更にしゃがみ込んでくるのを避けて刀を抜き、左足を切り裂く。刀が蒸発する。
残った右腕一本では既にまともに動けるはずがない。後は止めを刺すだけ。
完全に沈み込んだ身体に飛び乗り、剣を抜いて頭へと走り出す。
「っ!」
突然身体が宙に浮く。四肢のうち3つを失いながらそれでも懸命に身体を動かしたようだ。
落下する際に襲い掛かる不格好な形での最後に残った右腕での攻撃。それを踏み台にし、跳び振りかぶったその時
剣が限界を超えて砕けた。残る武器はない。後は生身で自爆特攻でい
「これは」
懐に感じた小さな重みにスイッチが切られた。まだ1つだけ、武器が残っていた。
「漣猗の一閃よ」
焔のところで束縛された際に渡来が私を助けるために使い、そのまま勝手に貰っていたナイフ。それを握りしめたらなぜか燃えるような厚さが、張り裂けそうな痛みが薄れた。
そしてそれに力を捧ぐ詠唱を唱える。並の武器なら攻撃まで持たずに消滅してしまうのだけどなぜかこのナイフは大丈夫な気がした。
「汝の敵に硲の経界を刻め!」
そのまま瑞の頭を一刀両断する。
「お疲れ様」
渡来が駆け寄ってくる。
「あのナイフ、助かったよ」
ナイフの性能だけじゃない。きっとそれが渡来のだからスイッチを入れない状態では耐えがたい神核の封印を解放した状態に一瞬耐えられた。
今封印している神核の大半が活性化しているからしばらくは新たに封印する余裕はないからまた渡来に休める場所を探してもらおう。それまで神喰いにだけは気を付けないとな。
「ちょっと疲れたからまたどこか――」
「ずっと君がまた神核を活性化してくれるのを待ってたよ」
-え?-
今起きていることが信じられなかった。渡来の腕が私を貫いていた。今までに見せたことのない邪悪な笑顔で。
「これは返してもらうよ」
突然の事態に私は体内から神核が抜き取られていくのを何もできないままだった。




