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4-7

「やっと」

「初芽姉っ!」

 一息つきかけたところに春野が私を通り越して走り出していく。



 まだ完全に状況に片が付いたわけではないものの、嵐から続いた連戦に決着がついたことへの安心感と溜まっていた疲労で力が抜け、春野の方を目で追いながらそちらを後ろから思わずしゃがみ込む。

 

「ううっ……」

 が、後ろからうめき声が聞こえ慌てて振り返る。まだ生きてたのか。神核の回収を先にすべきだった。もし治癒能力が戻っていたらもう勝てない。


「苦しい、ですー。痛、い、ですー」

 けれど杞憂だったらしく瑞はか細い声で苦痛を訴えるだけだった。


「随分と長い付き合いだったけどさよならだ」

 弾かれた刀を拾い、瑞の方に歩き出す。もう数歩のところで刀を振り上げるが


「なっ!?」

 突然刀越しに衝撃が走り、刀が手元から吹き飛んだ。


「ちょっと待ってもらおうか」

 嘘でしょ。


「お前っ!」

 よりによって何でこのタイミングで。神喰いが来る?


「君にまだ彼女を殺させるわけにはいかなくてね」

 このボロボロな状況でどうすればいい。それに渡来は負けたの!?


 混乱しつつも身構えるが神喰いは私に背を向け、瑞の側に行き顔を覗き込んだ。


「やあ瑞。惨めだね」

「あなたはー?」

 喰らうつもりかとそちらに走り寄るが神喰いらしからぬ声色、そして馬鹿にした口調で瑞に話しかけ他のを見て足が止まる。まるで知り合いのようだけど、さっき出合った時にはそんな様子はなかった。

 瑞は心当たりがないような反応でそれは間違いではないらしい。


「でも、まだ君に役目はあるんだ。だからこれを返してあげよう」

「あがっ!?」

 疑問に思いつつも、喰らおうとしたら即座に動けるようにしていたが神喰いの行動は想像の真逆のものだった。


「ぐががががががが!」

「何を喰わせた!」

 神喰いは動けない瑞の口に何かを入れて無理やり呑み込ませていた。その途端、瑞が唸り声を発してのたうち回る。とともにその身体が膨張していく。


「嵐の残りの神核だよ」

 問いかけに返ってきた答えはまさかのものだった。化け物になってでもと言っていた神喰いが利用できる力を手放すなんて。


 しかもなんで核を投入された結果こんなことになる。元は1人なはずなのに。


「元は1人でもずっと瑞が本体になっていた身体だからね。瑞の核が削られたところに嵐の核を全部入れてやれば制御できずに暴走するだろうと思っていた」

 そういうことか。いやそもそも瑞が「昔はもうちょっと自制できた」と言っていたことから不完全なバランスでの一体化の時点でおかしかったのかもしれない。


 けどまだ気になることがある。


「お前、神喰いじゃないだろ」

 今までに早退した神喰いとは空気が全然違うし、行動もおかしい。それにそんなことまで知っている様子もなかった。

 まさか、こいつは。


「おっと考え事は後にした方がいいと思うよ」

「ぐがががが! がるるるる!」

 肥大化していく瑞が四本足で立ち上がる。まるで獣のような咆哮を揚げながら。


「なんっすか。これ」

「さっさと冬禰を連れていけ!」

 唖然とする春野を叱咤する。今の状態の瑞相手には囮や援護としてすら期待できない。それなら手遅れかもしれないけど冬禰を連れて行かせて治療させた方がいいだろう。


「すまないっす」

「1人でやるんだ。じゃあ精々頑張って」

 冬禰を抱え離脱する春野を見送る。

 そして傍観を決め込む神喰いの姿をした何者かに不吉なものを感じるけれど、今はそれどころじゃない。


「くそっ!」

 考えるのをやめて再度拾った刀で斬りかかるが刺さりもせずに弾かれる。


「効かないか」

 治癒能力とかそれ以前の問題だ。攻撃を受けたことすら認識してないように見える。


「どうすればいい」

 攻撃に備えて身構えながら思考するが 


「え?」

 瑞は私に構うことなく、いまだ続く戦場への方へと向かっていった。


「待てよ」

 弓を射る。効かない。


「こっちだ」

 銃を撃つ。傷一つつけられない。


「止まれよ!」

 叫び呼びかける。歩く速度は緩まりもしない。徐々に距離が離れていった。


 歩いてきた巨大な怪物に気が付いた戦場の人々が狂乱する。主をなくした後も戦い続けていた嵐の軍も、私たちが神と戦うためにかく乱してくれていたレジスタンスも、そして瑞に付き従っていた人たちも。


 そして目についた先から踏みつぶし薙ぎ払う。


「またか。また。どうやっても変わらない」

 どれだけ苦しくても、見ていられなくて、もしくはそれが私か誰かの幸せになると信じて戦って、得られたものは結局それ以上の血飛沫か怨嗟の声。


「全部無駄だったの」

 足から力が抜ける。気が付いたらしゃがみ込んでいた。


 結局戦ったところで何一つ好転しない。冬禰は瀕死になったのに目的の神殺しすら成し遂げられてない。

 見ていられなかったものがもっとひどいものになり、人々は恐怖と絶望に襲われる。


 ふと視界の隅に人影がよぎる。いつの間にか渡来が私の側にいた。生きていてくれてよかった、そう思う以上に嘆きの言葉が出る。


「ねえ、私なんていなければよかったのかな」

 私がいたからこんな最悪の結果につながる作戦が行われた。私がいたから瑞は壊れた。


 何度も私を助けてくれていた渡来は下を向いたままその答えをくれなかった。


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