4-4
「お前らは!」「早く瑞様にれんら――」
「おらっ」「よっとっす」
私と冬禰を見て慌てる瑞の部下たちを渡来と春野が殴り倒した。
極力瑞に出会うまでの消耗を抑えるために反杉ら残りのレジスタンスがそれぞれ陽動を行う中こっそりと移動中の私たちだけど、当然戦場の中一切敵と遭遇しないなんてことはない。
そうなったときに銃を使えば新たな敵を引き寄せるだけになるので今のように殴り倒していくのが基本となっていた。
そんな中、渡来が春野に対して疑問を呈す。
「危険なのは嫌だって言う割に随分活躍するねえ」
春野は会議の時の無気力そうな態度と裏腹に率先して遭遇する相手を倒していた。そのこと私も疑問に思っていたのだが
「危険なんてまだないっすけど?」
春野はとぼけたような答えを不思議そうに返した。
「危険ってのはこの子の基準なんですよ。腕がたつ分普通の戦場ぐらいなら気にせずに活躍してくれます」
冬禰がフォローする。なるほど。でも肝心の瑞の対決で戦力になるのだろうか。流石に神相手に余裕があるとまでは思えない。
「そこっ!」
「ちょっ、隠密行動ってことをっ」
そんな中春野が突然銃を引き抜く。渡来が慌てて止めようとするがそれをかわしつつ遠くの方にある岩を狙い撃った。
「なっ!?」
と同時にその岩がこちらに向かって飛んできた。ちょうど中間あたりで銃弾と衝突し砕ける。
「あいつは」
岩が飛んできた方向を見るとこの間相対し、争った結果嵐の部下に取り押さえられたはずの神喰いがいた。そのまま捕まっていてくれればよかったのに。
おそらく一度完全に拘束された後に嵐の力を消化して自らの力にしてから脱走したのだろう。身に着ける衣服はボロボロで辛うじて大切なところが隠れているだけ。その状態から着るものも探さずに私たちを追跡してきたのか。
その執念にぞっとする。
けれどできれば今彼女との戦いは避けたい。勝てないとは思わないけどおそらく今の状態では手こずるだろう。以前敗北した瑞との対決を控えている以上ここでの消耗は厳しい。
「せっかく人間に戻してあげたのにまた化け物に逆戻り? そんなに人を超えた力に溺れるのは楽しかった?」
だから精神面で揺さぶりに行く。
神喰いはうつむき逡巡する様子を一瞬だけ見せたものの、すぐに顔をあげ、こちらを睨みつけてくる。
「焔様のためなら化け物になったっていい」
即答してないことからも分かるように吹っ切ったわけではない。強く噛み締めた唇からは血が零れ落ちていた。けれどそのうえでも戦うと決めたらしい。前回の戦闘と違い人数はこちらのが優位だけど能力的にも精神的にもずっと手強くなっている。
こちらから仕掛けるべき、そう思い刀に手をかけたその時
「好きですよ。そういうの。あなたが神に味方するのでさえなければ」
冬禰が神喰いに向けて容赦なく引き金を引いた。既に春野が発砲している以上隠密行動よりも一刻も早くこの戦闘を終わらせるべきだと判断したのだろう。
けれど歯牙にもかけず小蠅でも払うかのように銃弾は方向を逸らされた。そしてそれを把握したときにはもう目の前に刀を振りかぶる側近がいた。
「っ!」
刀を抜く暇もなく鞘に納めたまま攻撃を受け止めるもののそのまま軽く吹き飛ばされる。きっちり着地したためダメージこそないものの受け止めることすらできないか。
瑞の方に嵐の力が戻っていた以上、神喰いの方は喰らったとはいえ不完全でまともに打ちあえる範囲に収まっているのではないか、そんな淡い期待はもろく崩れ去る。
「羨ましいですね。けれど前は神無さん1人に負けたのでしょう? 4人相手で勝てますかね。春野くん」
初撃が無効化され、私も押されている状況を見て冬禰が再度銃を構えつつ春野にも攻撃を促す。渡来も刀を抜くがただ一人春野だけは明後日の方向を向いて後ずさる。
「春野くん!?」
それに困惑する冬禰、そして私や渡来、神喰いまでもが何事かとそちらの方向に目線を奪われる。
そしてその数秒後に理由を悟る。
「あらあらー。お祭りの音がしたので来てみたらー面白いことになっているじゃないですかー」
今回の標的である瑞が現れてしまった。
確かに発砲音の時点で敵が増えることがありえた。けれども反杉たちも陽動しつつ銃も使っている以上精々配下が来る程度だろうと思っていた。それなのにまさか瑞自らこちらに来るなんて。
目標が自分からやってきてくれた。鴨が葱を背負って来たなんて喜ぶことはできない。
神喰いと神、どちらか片方でも苦戦する、もしくは勝てない可能性まであるというのに2人同時は厳しい。
それに嵐の力が二人に分割されているという奇妙な状況で変な反応すら起きかねない。
不安要素しかない。
2対1ずつに分ける? それとも4対1対1の乱戦で上手く敵二人をぶつけながら数の利を生かす?
駄目だ。それじゃ全滅する。
実力はあっても危ないところまで深入りする気がないと明言する春野に狂気を秘めた冬禰。そして私は複雑な状況で連携なんてこなせない。
だったら残る選択肢は。
渡来の方を見たら彼もこちらを見ていて頷いた。同じ結論に至ったらしい。
「はああああああ!」
大声で注意を引きながら神喰いの元へと突撃する。それを見て神喰いが斬りかかってくるのを見て軽く飛び、刀の峰部分に蹴りを放ち『予定通り』吹き飛ばされる。
「そっちは」「任された!」
叫びながら、そして返事を聞きながら蹴りと吹き飛ばされる勢い、その両方を利用しそのまま瑞の方へ向かい、斬りかかる。
当然のごとく受け止められるがそのまま二撃、三撃と攻撃を続ける。
「1対1でリベンジですかー。いいですよー」
まるで脅威はないと言いたげな瑞に苛立ちながらも連撃で時を待つ。
「誰もそんなこと言ってないよ」
「さあ、朱莉ちゃん、君は俺一人で相手してやるよ」
後ろの方で堂々と宣言する渡来、そしてそれを聞いた冬禰たちがこちらへ援護の銃撃を放つ。
油断していたところに振りかぶった腕を撃たれ、攻撃が遅れたその腕に斬りかかり、合間に蹴りを放つ。
「3対1だけど文句ある?」
「いいえー。別にそれくらいいいですよー」
吹き飛ばされた先で平然と瑞は立ち上がった。




