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4-2

 滞在するキャンプ地の端の方にいくつか設置された的。本来は銃の訓練用に設置したらしいそこを借りて【風影】で射的を試していた。数日寝込んでいたこともあり身体の動きを確認したかったから頼んでみたところ利用させてもらえた。

 最初の数射は若干狙いが逸れたが途中からは狙い通りの位置に当たり続けている。


「お見事ですね」

 冬禰初芽が(ふゆねはつめ)が声を掛けてくる。寝泊りさせてもらっているテントの中にまではついてこないが、それ以外は大抵こいつがついてくる。監視のような役目なのだろう。手を組むといったところで所詮は素性の怪しい余所者だろうし当然か。


「お隣お借りしてもよろしいでしょうか?」

「好きにすれば。そもそもここはお前たちの場所でしょ」

 気にせずに射続ける横で冬禰が銃を取り出し狙い撃つ。なるほど簡単な動作でこれは強力だ。目で追えるギリギリの速度で実戦で使われたら避けるだけで精いっぱいだろう。


「それにしても化け物は腕前も化け物ですか」

 そんな中かけられた声に一瞬身体が強張る。が、それを抑えて次の矢を放つ。なんとか狙った位置には当たった。


「気にしてないわけではないけど平気みたいですね。怒らないんですか?」

 言われるたびにちくりと胸に痛みが走る。けれどもそれに怒るような時期はもう過ぎてる。


「そんなもの言われ慣れた」

 何度も何度も言われてきた。人が嫌いになった。それだけだ。


「でもあなたを化け物と呼んだとき、あなたの相棒は怒りましたよ」

「えっ?」

 なんでそんなことを。別に私が化け物であることに間違いなんてないのに。不思議に思う自分と嬉しい自分が確かにそこにはいた。


「反杉さんはあなたたちが人として信頼できるかを試すために私がそれを言ったと思っています。けれど私は本心からあなたを化け物だと思っています」

「で、それを私に言って何になるの」

 もしかすると少しは信じていい人なのかもしれないと思わせてくれた人物の言葉に少しだけ、ほんの少しだけ傷ついた。けれど次にそれ以上に驚く言葉が飛んできた。


「そして羨ましい。私も化け物になりたい」

 神に仕えていた朱莉ですら拒絶し動揺した化け物という存在、それへの羨望を見せる。なんだこいつは


「反杉さんは一人でも多くの人を助けたくてレジスタンスを作りました。けれど私は神の思うようになるような現状を壊したいんです。私は神が憎い」

 何があったか語る気はなさそうだ。けれどその目には確かに憎悪が浮かんでいた。


「あくまで優先度の問題なだけで助けられる人は助けますけどね」

 けれどすぐに切り替わった表情にそれもまた嘘ではないのだと感じさせられた。


「話は変わりますがあなたがこれ(銃)を使えば殺せたりはしませんか?」

「やだ」

 突然の、いやきっと私のことを知った時から考えていたであろう提案。それを拒絶する。使う気はないしそれに


「もしかして、あなた、自分が銃を使ったら人を傷つけられてしまうのではないかと考えていたりしませんか?」

 心の片隅で思っていることをぴたりと当てられた。私の神以外殺せない呪いは神の実験結果の一部。なら神の手を離れて人の手で進歩していったそれ(銃)ならば適用されないかもしれない。

 たとえ人が嫌いでも殺したくなんかない。人を殺せない枷は逆に言えば人間相手への配慮をしなくていい防護壁でもあった。


 そこをつかれ一瞬動きが固まった隙に無理やり銃を握りしめさせられた。


「何をするの」

「試してみてください。どうぞ私を撃ってみていいですよ」

 狂気としか思えない提案。そもそも銃なんて使う気がないのだから実験する意味も――


「不意を突けばこれくらい私にもできますよ」

「まっ――」

 持たされた銃を自らの腹部に推しつけ更に私の手の上からトリガーを引く。元々捕まってからの抵抗はほとんどできない私がそれを止めるにはその状態になってからではもう遅すぎて。


 間近での発砲音が鳴り響く。


「どうやら大丈夫みたいですよ」

 思わず瞑った眼を開けた時、そこには無傷の冬禰がいた。


「頭おかしいんじゃないの?」

「そうかもしれませんね。で、使ってみる気になりました?」

 あっさり肯定されて逆に問い返される。けれど答えは変わらない。首を振る。


「手段なんて選ぶ状況ですか?」

「手段を選ばない、それは綺麗言だ」

 手段を選ぶ方が綺麗言だと思うかもしれない。けれど私はそう思えない。


「そういう言い方は自分で取った手段を選んだと認めたくないから仕方なかった、そうするしかなかったって投げてるだけ」

 たとえそれ以外勝ち目がなかったとしてその手段を選んだとしても負けるよりもそれを選んだということ。自分で選んでない状況なんてほとんどないんだ。たとえ望まずにこんな存在にされたとしてもそこから先の行動は私の選択の結果。


「正々堂々戦う主義でもない。けどやるときはどんな時でもその重さは向かい合わないといけない」

 たとえ吐き気を催すくらいに自分を追い詰めることになったとしても、それは私が背負うべきものだ。 


「持って分かったと思いますけどこの銃別に普通の武器とかと比べて軽いわけではないんですけどね」

 本気で言っているのかとぼけているのか判別できない調子で首を傾げられた。


「ただそれならきっちり殺してくださいよ。そうじゃないと誰の目的も果たせない」

 そう言って立ち去ろうとする。私がテントに戻ろうとするわけでもないのに。 


「監視はいいの?」

「反杉さんは監視なんてつけなくていいって言っていましたよ。最初の頃は確かに独断で監視していましたが私個人があなたに興味を抱いていただけです。また来ますのでよろしくお願いします」

「はあ!?」

 興味本位でついてきた渡来といいどうして変な奴にばかり私は付きまとわれるんだろう。治りかけで動いたことも合わさって途端に疲労感が増してきた。

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