3-9
「今は俺に任せて。ゆっくり休んでいて」
戦場から少し離れたところにあるキャンプ地。そのうちのテントで眠る神無ちゃんは命に別状こそなさそうではあるものの未だ意識を取り戻さない。
本当は目を覚ますまで側にいたいけれどそういうわけにはいかない。
「そろそろこちらに来ていただきましょうか」
俺たちを助けた集団。その中にいたある人たちに案内されてここには来た。そして神無ちゃんの治療と休息の代わりに情報提供を求められていた。
「反杉さん、お連れしました」
「御苦労、初芽。よう。あの子は大丈夫そうか?」
「おかげさまで何とかなるかと」
『善行の町』で出逢った2人。反杉と初芽ちゃん。神無ちゃんに人の善意を少しだけ信じさせてくれる一因となった人たち。その彼らが俺たちを救い、このキャンプ地まで誘導していた。
だが、彼らとともにいる人々は俺を警戒するようにし怪しげな動きをしたら対応できるような準備をしている。これ下手なことしたら撃たれるな。暴れる気はほとんどないけど。
「はあ。そんなにピリピリするなっての。お前らはここから出てろ」
そんな様子を見て溜息をついた反杉が命じると言われるがままに初芽ちゃん以外がテントから出て行った。
「面倒な空気にして悪かったな。あー。何から話すか。こうして改めて会うとどっから始めるか困るな」
「俺の方は困らないくらい聞きたいことがあるんだけどね」
「じゃあ、まずはそっちからでいいや。何から聞きたい?」
人払いしたものの外にも大量の相手側がいる状況。多少のイニシアチブを取られることは覚悟していたが予想に反して相手は先にこちらに場を委ねてきた。
「そうだな。君らは結局何者なんだい?」
今回の乱入の一件は言うに及ばず、それを繋げて考えると前の町に彼らがいたのもきっと偶然ではないはず。
「簡単に言えば一般的にレジスタンスと呼ばれているやつだ」
レジスタンス、大半の国民が神による支配を受け入れたこの国で、それに逆らい時には争い、時には神からの被害を受ける人々を助ける集団。
「反杉さんは我々のリーダーです」
その中でのどういう立場か聞こうかとしたが初芽ちゃんが先に言ってくれた。
「半分飾りみたいなもんだけどなあ。こうして前線に駆り出されているくらいだし」
「勝手に出張ってくる人が何言ってるんですか」
そして前の町で彼らに抱いていた疑問が大体氷解する。あの町にいたことは纏の危険を察知して、もしくはそうでないにしろそこの住民の様子見を含めた調査か何か、そして多くの人を移住させるだけのコネは彼らレジスタンスと協力体制にある町があったからだろう。
今回も嵐と瑞の戦争を察知し住民避難、またはあわよくば神を打倒することを目指したのだろう。前の町との武装態勢の違いを見ればむしろ後者が本命だったか?
そうなると次に聞きたいことは
「なんでそれを持ってるんだ?」
複数の神を殺してきた神無ちゃんを軽くあしらった瑞、それにさほどダメージこそ与えられないもの一時的な足止めに成功した武器。
―銃―
神が支配するがゆえに人の技術の進歩が遅れているこの大陸にはまだない武器。それをこいつらは使っていた。
銃そのものならまだ分からなくない。別大陸の人が開発できたものなんだから神に頼らずに反乱を起こそうとするからには作れてもおかしくはない。
けれど連発式のそれはどう考えても技術がぶっ飛びすぎだ。間に火縄銃とかそうじゃなくてももっと単発式のものが登場することなくそこまで一気に進歩するのだろうか。
「その件は流石に部外者には教えられないな。というかどういう意図であっても」
けれども、いや当然と言うべきか。この質問への回答は拒否された。そしてそうなるとこれ以上聞きたいことは聞けないだろう。
「さてそろそろこっちから聞こうか」
「はいはい。まあ可能な範囲で答えるよ」
大した質問は来ないだろう。そう甘く見ていた俺だったが
「お前たち、神殺しか?」
「っ! どこでその情報を手に入れた」
神を殺したのかではなく、『神殺し』というキーワード。それは神無ちゃんの特異性をある程度察した上での質問でしかない。否定するかとぼけるか一瞬考えるがおそらく無駄だと悟り、逆に質問を飛ばす。
「神に反抗しようとするのならできうる限りの情報は集めるさ。否定して時間を無駄にしないだけ話は通じそうだな。なら単刀直入に言う。俺たちの仲間にならないか」
その質問にもまともに答えは返ってこないのは想定していた。けれどそれに続いた勧誘の言葉は正直驚いた。
「俺達がお前らを支援すれば神を殺すのも楽になる。どうだ? 入ってくれないか?」
「悪いけど俺たちはそういう目的じゃないんだ」
けれど、受け入れるわけにはいかない。決して神無ちゃんは神を殺すことを第一に動いているわけではない。むしろ殺した結果悩んでいることすらある。
それにこういう組織に特異な力を持つ神無ちゃんが入っても使い潰される可能性が高いし、そもそも神を敵視するやつらに取って神無ちゃんがどう見られるのだろうか。
ただ神を敵としてみているだけならいいけど、神を異形の人外と見なしているのであればそれを殺せる神無ちゃんも下手すれば怪物扱いまでありえる。
反杉たちは平気そうでも最初の警戒心を見ると他の人たちまではそうとは限らない。そしてそうなればせっかく神無ちゃんに芽生えてきていた信じたいという気持ちすら粉々にされて心が壊れかねない。そんな俺に信じがたい言葉が聞こえてきた。
「化け物なら化け物らしく肩身を狭くしていればいいのに」
一瞬呆然とする。まだ比較的信じられると思っていた初芽ちゃんの口からその言葉が出たことに。
「神殺しなんて人でも神でもない化け物なんだから大人しく神を殺すために使われればいいんですよ」
プチっと頭の中で何かが切れる音がした。
「もう一回言ってみろ。二度と喋れなくしてやるよ」
初芽ちゃんの胸倉をつかみ上げる。が、全くそれに動じることない彼女を見て空いている手を握り締め、拳を作った。その時
「はいはい。ストップストップ」
「失礼しました」
反杉が間に入り、止めたかと思うと初芽ちゃんが即座に謝罪した。それを見て気が付く。
「悪かったな。相方の為にそれだけ怒れるのなら信用できる」
「ちっ。食えないことするねえ」
さっきの初芽ちゃんの発言は俺を試すためにわざとやったものだったのだと。
「本当ですよ。せめて憎まれ役は自分でやってくださいよ。殴られると思ったじゃないですか」
「悪い悪い。ただ止めに入る役が俺じゃないと万一の時やばいだろうよ」
初芽ちゃんが愚痴り、反杉がなだめる光景を見て毒気を抜かれ、溜息がでる。
「もうちょっと相方が動けるようになったらでいい。せめて今暴れている瑞とかいう神を止める手伝いくらいはしてくれると助かる」
「神無ちゃんが起きたら相談して決めるよ」
仲間になれに比べれば緩い提案。そもそも最初からここに落としどころを作っていた気がしないでもない。ただ、そうだとしても神無ちゃんは彼らに関係なくそれをするのは分かっている。相談すると言っても結果は見えている。
だから、せめて少しでも神無ちゃんの負担を減らす。それが今の俺のやるべきことなんだろう。こうなってしまったのは俺の責任なのだから。
Chapter 3 End
Continues to Chapter 4 Side 神無




