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3-7

 相変わらず倒れたままの神無ちゃん。だが、その態勢でも素早く弓を射る。動揺していたのか朱莉ちゃんは反応が遅れるが


「あはっ! もう狙い打つことすらできないの?」

 けれど複数放ったその矢は一本たりとも朱莉ちゃんの方ではなく、それらは朱莉ちゃんの操る嵐の従者たちの方へ向かっていた。

 所詮操っているだけの相手を攻撃されても何ともないと思ったのか、朱莉ちゃんは小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、回避させようともしない。もしかすると解除した際に彼らがダメージを受けた方がその場から去るときに都合がいいと思ったのまであるのかもしれない。

 そしてその猶予が発狂しそうだった朱莉ちゃんに余裕を取り戻させていた。ただし、一瞬だけであったが。


「狙い通りだけど」

「えっ? ああ?!」

 けれど従者たち3人に矢が刺さり、崩れ落ちるとともに朱莉ちゃんが胸を抑えてしゃがみ込む。


「洗脳や念動力的な操作ではなく、魂の一部を使った憑依なんだから、それが殺されればお前に帰ってくる。そんなことも分からなかったの?」

 息も絶え絶えで途切れ途切れに話していたはずの神無ちゃんはいつの間にか立ち上がりはっきりとした言葉でその理由を突きつける。


「あなた、人間は殺せないはずじゃ」

 そうか。別に従者たちになら当たっていいと思ったわけではなく、あれを聞いてたのか。

 ―私は神様しか殺せないから―焔を殺した時に神無ちゃんが呟いたその言葉を。けれどそれは既にその力の元々の持ち主、纏との戦闘時に神無ちゃんが大体答えを出している。


「私が殺したのはあいつらに取りついたお前だけだ」

 そう。憑依している魂だけを神無ちゃんは殺せる。そして『化け物』と呼んだ、朱莉ちゃんはおそらくほとんど神のような存在になっているんだろう。


「けどこの力を使っていた神様は憑依先がいくら殺されたって気にも留めなかったって」

「生まれつきの神と、それを喰らって成りかけただけであろうのお前の器が違うし、そもそも魂の一部が殺されて何とも感じないほど壊れてないだろう?」

 相変わらず無表情のまま、そして立ち上がったがゆえにまるで見下すように言う神無ちゃんに見ている俺も若干の恐怖を感じる。そして


「さて3回殺した、後何回死にたい?」

 死の宣告を下す。 


「ふざけるなああああ!」

 精神的に追い込まれた朱莉ちゃんは叫びながら神無ちゃんへの方へ走り、斬りかかる。けれど、初回の戦闘では攻撃が通ると分かった瞬間神無ちゃんが圧倒した。それくらい実力差があった。

 神無ちゃんが重傷を負っていようが、以前よりも更に攻撃が通るようになり、しかも逆上した状況では結果は見えていて


「さようなら。化け物にさせて悪かった」

 既に回収していたらしいナイフ一本で朱莉ちゃんの刀を弾き飛ばしたかと思うとそのまま背後に回り、胸部を貫いていた。


「ん?」

 けれど突き刺した神無ちゃんが不思議そうな顔をする。そして朱莉ちゃんも苦しそうな様子は見せるものそれだけで致命傷を負ったようには見えなかった。


「よかったね。まだお前は人間として分類されるようだよ。神殺しじゃお前を殺せない」

「なら、そのまま死んで」

 状況を把握できず少しの間、茫然としていた状態から復帰するが否や、貫かれたまま首を絞めようと手を伸ばす朱莉ちゃんの執念。しかしそれすら届かない。


「だけど喰らって結晶化した神の力を殺しなおして取り出すことくらいはできる」

 振り払うように朱莉ちゃんの身体から引き抜いたその手には黒い宝石のようなものが握られていた。神無ちゃんがさっき胸を貫かれた時に零れ落ちたのと同じものか?


「今更そんなもの!」

 神無ちゃんを操る気がないのか操れないのか、力を殺されたことを察しても気に留めず再び襲い掛かろうとするが


「これでもうそいつはお前らを操ることはできない。後は好きにしなよ。死体と口元見れば分かるけど、嵐に止めを刺したのはそいつだよ」

 神無ちゃんは別の相手に話しかける。


「え?」

 その言葉に朱莉ちゃんが思わず後ろを向くと朱莉ちゃんから解放されていた従者たちが一斉にとびかかっていた。


「っ!? 殺したのは、あいつだ!」

 その状況で慌てて抵抗し、神無ちゃんの罪を訴える朱莉ちゃん。

 けれど神無ちゃんの提示したそれは信じるには確かな証拠で、それのみを信じる。両方とも真実であるともしらず、3人は朱莉ちゃんを取り囲み押さえつけた。


「貴様らはどうする?」」

「勝負は不成立、なら水を差したやつを置いてさようならするよ。私が戦いに来たのは神だけだから」

 従者の1人が問いかけると、神無ちゃんは先に飛んだ宝石のようなものを拾い集めながら答えた。


「そうか」

 このまま返していいのか若干迷ったが今は仕えていた神の死亡という事実とその犯人とみられる朱莉ちゃんを優先するべきだと判断したのだろう。従者は頷く。

 それを見て神無ちゃんは俺の方へと歩いてきた。


「ごめん。ちょっと、限界だ」

 目の前で崩れ落ちる神無ちゃんを受け止める。


「ああ、戻ってしばらく休もう」

 神無ちゃんに肩を貸しながら嵐の従者たちが俺を治療するときに持っていた治療用具をくすねてその場を離脱する。少しでも安全なところで神無ちゃんを治療し、街に戻るために。


「ん?」

 歩き出すと視界の隅、嵐の遺体があったあたりに光が走った気がした。けれどそちらを振り向くとそれ以外のものはなく、気のせいかと思いながら俺は再び歩み始めた。

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