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3-6

「流石に厄介だな」

 自ら鍛え上げたであろう従者たちに加えて、そこへ混じる朱莉ちゃんの追撃には流石の嵐も手を焼いていた。

 洗脳ではなく憑依であるために、一糸乱れぬ連携な上に、更に思考を交わす一瞬のタイムラグもない。更に1人が視認する光景を全員が共有しているため死角もほぼほぼない。。


「決闘中に割り込む無粋者ではあるが評価してやろう。この連携は面白い」

 その状況でも嵐は笑う。この乱戦は歓迎とでもいうように。


「だが、もう慣れた」

 そして戦闘狂の本領を発揮して、ギアをあげていく。


「遅い遅い遅い!」

 4人の行動への防御が追いつきはじめ、それどころか反撃も時折入り始める。それにより倒されるわけにはいかない朱莉ちゃんが若干下がり気味になり、更に嵐は余裕を取り戻していく。


「なんで。対応できるの!」

「どんなに完璧だろうが個性のない連携なんてたった1人読み切ればいくらでも対処できる」

「ならこれで! 行って!」

 朱莉ちゃんの叫び声とともに3人の従者たちが完全に同時のタイミングで攻撃を仕掛ける。

 連携攻撃はわずかに攻撃した方がずらした方がいいという話があるが、そのわずかなずれの猶予で対処されてしまうと見たのだろうか。


「戦法じゃなくて貴様自身を読み切ったと言った」

 ここまでの戦闘中に移動しながら誘導していたのだろう。足元にある折れた斬馬刀を片手で拾い上げ、3人まとめて薙ぎ払う。しかもその対処する隙を狙って突っ込んできていた朱莉ちゃんに対してもう片方の手に持ったままの刀を突き出していた。

 それは朱莉ちゃんの武器を払いのけ、更に心臓へと迫る。


「ぬかったか」

 けれど2人が交錯する瞬間どう見ても迎撃に成功するようにしか見えない嵐の口から謎の言葉が漏れ、首が若干後ろを向こうとした、そう感じるか否かのタイミングで嵐が前に倒れ、朱莉ちゃんの身体にもたれかかった。


「見事……だな」

 嵐が朱莉ちゃんにもたれかかったまま振り向いた先、そこには最初に真っ二つにされた馬の死骸があり、更に神無ちゃんがいた。

 彼女は倒れたまま漆黒の弓矢【風影】を持っていた。その弓から放たれた矢が4人同時相手で身動きを鈍らせた嵐の胸を射貫いていたのだ。


 恐るべきことに完全に死角だったにも関わらず嵐は気付いていたようだが、迎撃と反撃により完全に身体が動き切った状態では流石に彼女にもどうしようにもなかった。


「我に勝った……褒美に一つだけ、教えて……やろ、う」

 嵐は不意打ちを責めることなく、むしろ讃え神無へと話し始める。 


「瑞は、――――がはっ!」

 そして妹に関して何かを言おうとした直後になぜか言葉をとぎらせ、完全に力尽きた。戦ったとはいえ、元来神に仕えていた身として他の神にも敬意を表してか朱莉ちゃんは嵐を抱きしめ、俺からは亡骸が隠されるようになった。

そのまま黙祷を捧げるように黙り込む。けれど、その沈黙を許さないやつがいた。


「お前も、私と同じ、化け物(こっち側)だね」

 ろくに立ち上がれない状態なのに、時間を稼ごうとすることなく神無ちゃんは朱莉ちゃんを挑発するような言葉を吐いた。というか同じってどういうことだ?


「私が……お前と同じ、化け物? 神殺しに加担したから? これは嵐様が焔様の――を奪おうとしたからで、お前となんか一緒にしないで!」

 憎い相手に自分と同じと言われ、激高する朱莉ちゃん。


「少なくとも、今のお前は、もう神の側近なんか、じゃない……神を凌辱する、化け物だ」

 重症がゆえに言葉が途切れ途切れであるにも関わらず、その言葉は何の感情も籠ってないように淡々としている。


「違う、私は! お前を殺し焔様を生き返らせるために!」

「その結果が、それ? 神を生き返らせ……るために神を食い散らかすと?」

 食い散らかす? どういうことだ? そんな疑問はすぐに解決した。


「え、あれ、私?」

 嵐から離れ、ふらふらと後退していく朱莉ちゃん。その口は真っ赤に染まり、崩れ落ちた嵐の遺体には遠目からでも分かる大きな噛み痕が残っていた。

 まるで、いや間違いなく朱莉ちゃんは嵐に噛みつき、その身体を喰らっていた。もしかしたら嵐の最終的な死因は矢ではなく、食われたことだったのかもしれない。


「嘘だ! 嘘だ! 私はっ! 化け物なんかじゃ!」

 叫びながら膝をつく朱莉ちゃんに対して神無ちゃんは追い打ちをかけるように弓を構える。


「そんなに、化け物が嫌なら、死ねばいいよ」

 そう言い放つ神無ちゃんの顔には表情一つ浮かんでいなかった。


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