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3-4

 もともと人間と神の身体能力には格差がある。持久戦になれば不利だし負傷していればなおさらだ。

 踊るように斬馬刀の連撃を回避していくが、時間が経つに連れて神無ちゃんは息を荒げていた。このままだと限界が近いだろう。直撃すれば一発でノックアウトされかねない。


「おや? 何を」

 神無ちゃんの動きを見て嵐が攻撃の手を休め首をかしげた。


「諦めた、わけでもなさそうだな」

 神無ちゃんが取った行動。それは、刀を鞘に納めることであった。


(これは? 居合か?)

 一撃必殺の抜刀術。足を負傷し長期血戦は不利、そして隙をついた攻撃すら防がれるのであれば最速の剣術であるこれがベストな手段なのかもしれない。それゆえの選択か。


 神無ちゃんの選択はまさかの防御。横から薙ぎ払う一撃を鞘に納めた刀で受ける。もちろん受け切れるはずはなく吹き飛ばされるが受け方で威力を緩和し、更に飛ばされた先の石盤や地面に刀を払い激突を回避する。

 しかも元々の舞うような動きで当たる前から一番威力が低いところまで身体を逸らしているから見た目以上に受ける負担は少ないらしい。


「なら、これでどうだ」

 横薙ぎが効果が薄いとみた嵐は上から打ち付ける。ああそうか、きっとこれを待っていたんだ。縦薙ぎは隙が大きいし、横薙ぎほど動きを封じる面が広くない。この一瞬に居合で仕留めるつもりなのだろう。


 けれど神無ちゃんは嵐の方向ではなく、真上に飛んだ。これじゃあ居合は届かず、返しの切り上げをもろに食らう。宙に浮いたこの態勢では勢いをそぐこともできないだろう。

 足の負傷がそれだけ酷かったのか。


 いや、最初から神無ちゃんは居合なんて狙ってなかった。


「武器破壊だとっ!?」

 斬馬刀が地面を抉るよりも早く鞘に入ったまま刀を振り下ろす。

 自分の自重と振り下ろされる勢い、そこに神無ちゃんの振り下ろしが重なり合った結果斬馬刀はへし折れた。


 刀を鞘に納めたのは一撃性よりも刀自体の頑強性を増すため。そしてこの縦薙ぎを誘導するためだったのだ。


「やるじゃないか。ならこれで行こう」

 そんな奇跡のような展開を見ても、なお嵐は余裕を失わない。折れた斬馬刀を捨て、新たに武器を取り出す。それは神無ちゃんと同じく刀だった。


「正直関心したよ。我とここまで戦えるやつはそうそういない。けれども我には敵わない」

「武器を壊されておいてよく言うよ」

 挑発の飛ばし合いから二人は刀を抜き、再度激突が始まる。


 斬馬刀と違い、攻撃面積が小さい刀なら神無ちゃんは余裕がある、なんてことはなかった。


「うっ!」「あっ!」

 神無ちゃんが紙一重で回避したはずなのに届いている、攻撃で伸び切った腕に持つ刀を足場にしようとしたところを切り上げられ辛うじて刀で防ぐのが精いっぱい。


 神無ちゃんの動きが風になびく柳だとしたら、嵐のそれはまるで柊。触れるものを切り裂いていく、柔らかさなんて突き抜けていく鋭さだった。

 その鋭さに、避けたはずの神無ちゃんやその服に徐々に切り傷が増えていく。


「逃げろ! 神無ちゃん!」

 攻撃は既に通用せず、防御してもそれごと薙ぎ払われ、回避すら追いつかなくなってきている。勝機はすでにない。だったらここで逃げるのが得策だ。

 今回の一件は俺の提案であり、神無ちゃんが自主的に動いたものではないし、謁見の様子からして瑞も俺たちに期待なんてほとんどしてないはずだ。嵐を疲弊させてくれればいいくらいだろう。

 要するにこれ以上無理に戦う理由なんてないんだ。


「降参なら認めるが、逃げたらそいつを殺す。もっとも逃がす気はないが」

 けれど、それに釘を刺すように嵐が脅してくる。と同時に治療してくれていた従者たちが俺を抑えにかかる。

 ああ、別に俺が勝手に神無ちゃんにくっついているだけだし俺に人質としての価値なんてないだろうに。


「そもそも逃げる気なんて毛頭ないから」

 一見俺を庇った可能性すら考える即答っぷり。けれども多分違うんだこれは。俺が叫んでから嵐が俺を人質として利用しようとするまでのわずかな時間神無ちゃんは逃げる素振りどころか逆に前へ踏み出していた。

 ああそうか。神無ちゃんには神を相手に逃げるという選択肢がないんだ。前回一時撤退したのと最初の時に逃げ出したので勘違いしていた。前回はあくまで『撤退』であって『逃走』ではない。

 纏の性質をある程度読んでいたとはいえ、あそこから勝てる保証なんてなかったのに。むしろ憑依能力を把握した時点で例の親子を救うには父親を解放し、町から逃げる方が成功率は高かった。

 そして出逢った町の逃走でも焔を殺すまでは逃げなかった。逃げたのは既に神殺しを成し遂げ残った相手が人間だけになり、戦う相手がいなくなってからだ。


 要するに勝てない神と戦闘になった時点で神無ちゃんは詰んでいたんだ。全部俺のせいだ。


「勝敗が付いた上で生き残れば命まで奪う気はないが、死なないように手加減するつもりはないぞ」

「そう。私はお前を殺すつもりだから」

 こうなれば神無ちゃんが殺されずに戦闘が集結するのを祈るのみ。そう考えたところでの神無ちゃんの明確な殺意の表明。嵐は別にそれを気にする様子を見せもしないが、ただの決闘と殺意を含んだ決闘では対応は無意識に変わってしまう。

 決闘前に仕組んだ俺のわずかな保険もこれでほとんど瓦解した。


 神無ちゃんと嵐はしばらくにらみ合う。そして神無ちゃんは動き出した。


「はああああああ!」

 神無ちゃんが選択したのは右手での片手突き。得意とする舞のような戦闘法は通用しない。けれどもそこに散々慣らしたがゆえに緩急が効いているかもしれない。それに賭けた一撃か。

 けれど


「それは悪手だ」

 嵐が振り上げた刀により、神無ちゃんの持つ刀が軽々と弾かれる。打ち合いになったら今の状態ではこらえることすらできない。目に見えた結果だった。

 更に武器を失った神無ちゃんは突きの勢い止まることが出来ずに嵐の方へと身を投げ出すこと……いや、これは!?


「油断、したな」

 神無ちゃんは左手にいつの間にかナイフを持っていた。片手突きの理由はその攻撃のリーチゆえに相手は自分自身ではなく武器への対処をするであろうこと、そして刀を弾かれても勢いで突っ込めること。

 それを利用した隠し手。

 最初の一撃の時同様腕で防御され塞がれる可能性もあるが、決まれば一撃での逆転もある、失敗したらもはや次の手はない博打。ただ勝ちを確信した油断による隙があれば成功率は


「油断?」

 けれど結果としてその賭けに挑むことすらできなかった。

 嵐は刀の勢いを殺すことなく身体をひねり、神無ちゃんの腹部を蹴り上げていた。

 軽い身体は軽々と嵐の身長の数倍の高さに吹き飛ぶ。

 

 そして宙に浮いたがゆえに神無ちゃんはそもそも強烈な蹴りが急所へと刺さったことで身動き一つとれないのか防御の体制すら取れない。もしかすると一瞬意識が飛んだのかもしれない。


「神無ちゃん!」

 落ちてきた小柄な身体、その胸に嵐の刀が突き刺さり、一瞬遅れて落ちてきたナイフがからんと音を立てた。

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