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3-2


「やっぱり似合ってるな」

 この状況でも空いている宿屋を見つけて、夕食を取り、それぞれ温泉で一休みした後、俺は自分の取った部屋に神無ちゃんを呼んでいた。

彼女の長い黒髪と湯上りで上気した赤い頬に自然と馴染む浴衣は、何度か見せた着物姿同様にしっくり来た。


「どうでもいいから用件を早く」

 褒めたことがお気に召さなかったのか神無ちゃんは不愉快そうに急かしてきた。照れているのではなく本気で嫌そうな様子だ。

てっきり焔に着せられたものを再利用することが原因だと思っていたのだが、着物の時も不機嫌そうな様子があったし本人はそういった装いがあまり好きではないのかもしれない。勿体ない。


「なあ、お前。今回だけ神の味方をしてみるつもりはないか?」

「はあ? 頭大丈夫?」

 当然の反応だな。神殺しである彼女に対して真逆のことを提案しているんだから。


「俺が知っている限りだけどここの神は基本的に人に対して害を及ぼさない。前回の遊び半分で人間の善行を見たがったのと違って平穏を好むのが本質だからな」

 興味本位のものならば興味を失ったり期待外れならそれは続かない。どころか転じることもある。けれども本質ってやつはそうそう人も神も変わらない。

むしろ神は存在そのものに直結しているがゆえにそこに縛られてすらいる。その本質を都合よく解釈することはできるらしいけれども、逸脱することはほとんどない。


「少しは信じてもいい人間がいることくらい分かっただろ? 神にもいるかもしれない。別に問答無用で全ての神をぶち殺したいってわけでもないんだろ?」

 神無ちゃんがただ神を殺すだけに全てを懸けているのならどの町に行っても速攻で神を殺しに行くはず。でも俺が見た神殺しの動機は許せないものを見て衝動的に動いた結果戦闘になったもの、誰かの願いの為に動いたものとただ神がいたからというだけで動いたものはない。

 そしてこの提案をした理由は神無ちゃんがどうなるかの興味が半分、いろいろとボロボロな神無ちゃんをどうにかしてやりたいのが半分。

どうしたいのか、どっちの気持ちが強いのか、また本当の気持ちなのか俺にも分からないけど、だからこそ見てみたい。


「無理にとは言わないさ。ただ嫌なら早めにこの町を出ていく。巻き込まれる気もないのに危険なところに長居する理由はないからな」

「やるよ。いい温泉だったしゆっくり休みたいし壊されちゃ困るな。最近ちょっと疲れたし」

 考え込む様子を見てあえて反対の選択肢も提示する。素直じゃない神無ちゃんならその方が賛成してくれるはず。

そう目論んだら案の定の答えを出してきてくれた。



 神無ちゃんとの相談を追えた翌日、俺は一人で神の瑞に謁見を申込んでいた。戦うわけでもないのに神と神殺しを下手に接触させるのがどうかと思ったのもあるがそもそも神無ちゃんが神に会いに行くことを拒んだのが理由だ。


「貴方様はー何の御用でしょうかー?」

「あなたを助けたいって人がいてね。協力させてくれないか」

 にしても話に聞いてはいたがこの神様ほんわかしすぎて気が抜けるな。言葉遣いを抜きにしても本来神が持つ威厳のようなものが全く感じられない。


「ふむ」

 そう思った直後に自分が甘かったと思い知らされる。瑞が探るような目でこちらを見ると緩い気配が消え去り全身に重圧すら感じる。先ほどまでとの落差もあってもしも俺が嘘をついていたら即座に自白しそうになるくらいだった。


「罠かと思いましたがー、御姉様は真正面から潰しに来るお方ですしー必要ありませんねー。どうか御願いしますー」

 なるほど。むしろ先ほどのほんわか気配こそが彼女の神性か。もし敵に回したりこちらの気が緩んだり、切り替えた時に想像以上にプレッシャーを感じたりと本来の同等の神以上に危険なのかもしれない。

平穏が本質ではあるけれども、その結果が人間にも恵みがあるしほぼほぼ害を及ぼさないだけで決して彼女は人間のために動いているわけではない。分かってはいたけど甘くないな。だからこそ神無ちゃんが彼女を信じられるか賭ける価値があるんだけどさ


「集団行動とか、できる奴じゃないんだ。できれば直接本隊とぶつけさせてほしい。ワガママを言わせてもらえればそれも最小限の相手と」

「いいですけどー。無理はしないでくださいねー。私はあんまり人が死ぬのも好きではないのですよー」

 勝てるわけないと言いたげに、いや実際そう思っているのだろう。あっさり提案を通してくれた上で心配までしてくる。

ただしそれは無理を止めるけど、あくまでそれは万一の時に起きる結果が好きじゃないだけ。しかもそれを絶対止める気もない。負けると思っているのにだ。


 だけどこちらには彼女が知らない切り札(神殺し)がいる。度肝を抜いてやろう。



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