3-1
side 渡来
血飛沫が舞い、悲鳴が鳴り響く。逃げまどう人々は次々に倒れていく。
信じていたものに裏切られ人々が絶望しつくしていた。
「どうやっても変わらない。全部無駄だったの」
神無ちゃんが膝をつき、崩れ落ちた。ここは地獄絵図。
「ねえ、私なんていなければよかったのかな」
神無ちゃんの問いかけに俺は何一つ返すことができない。慰めの言葉も叱咤する言葉も。
だってこれは
俺が間違えた結果なんだから
×××
「悪い。当てが外れた」
目的の町に到着早々に神無ちゃんに謝ることになった。とりあえず機嫌取りも兼ねて茶屋でお団子とお茶を奢る。
「別に、ここでの目的すら聞いてないから謝られるようなことはないけど。どうしたの?」
「信じてもらえるかは分からないけど、本当はこの町でしばらく休むつもりだったんだ」
ここは安らぎの町。町にいくつも温泉宿があり、住んでいる人々も基本的にまったりとしている。
1つ前の善行の町と違うのは、ここの神は単独で見れば特に裏がない。ただ単に安らぎというものを本質的に好んでいてそれを自分の支配地域全体にもたらそうとしただけなのだ。
前の町での戦闘は正直想定していた。が、想像以上に激戦となり神無ちゃんも疲れているだろうし少し休んでいくことも悪くないと思った。それとは別にもう1つ目的はあったけれど。
「ちょっとこの辺で待っててよ。聞き込みしてくる。もうちょい食べたかったらおかわりしてて代金は置いていくから」
「別にいいのに」
けれど今現在この町に住む人々は慌ただしく動き回り、温泉宿もほとんどが閉じていた。当初の予定とは違うけど少しでものんびりさせてあげようと思い、一人で席を立つ。
いいと言いながらもまだまだ食べたそうに奥を覗き込んでる可愛い神無ちゃんも見れたしね。
「ねえ、どうしてこんなことになってるの?」
と言っても店からは出ない。茶屋で食事している人に話を聞きにいくだけだ。面倒な話になった場合は神無ちゃんが聞いてない方が知らんぷりもしやすいだろうし。
「実は瑞様のお姉さまがこの国に戦線布告してきまして」
「そういうことか」
最初に目について話しかけた、おにぎりを食べている男が答えてくれた。
単独では裏のない神様の、単独じゃない場合に発生する裏側。それは彼女の姉神である。
ここの神である瑞とは真逆でひどく好戦的で同じ神相手にも平然と戦争を仕掛けていた。その神が妹相手に、町どころか国単位で戦争を仕掛けてきたとなりゃ、そりゃ町中それどころじゃないな。
「でもここの姉妹神様はそれほど仲悪くなかったって聞いていたけど」
戦争を起こす神は多くはないが皆無ではない。そんな中争いを好まない瑞がこのような町を作れているのは何かあれば姉が守るからなはずだった。
「詳しくは分かりませんが、お姉さまが瑞様に何かを求めてそれを拒否したとか」
「大変だな」
「ただ我々は瑞さまのおかげでこの暮らしをできています。お姉さまだろうが、瑞様に害をなそうとするのなら追い払ってやりますよ!」
意気揚々と実際は人間が神に勝つことは困難ではあるけれど、その姉神は人間を率いて侵略戦争をするという。なら町の人にもできることはあるはずだ。そして町の人はそれを厭わないほどに慕っているらしい。
「お待たせ。とりあえず今夜の宿を探して予定決めよう、っと」
神無ちゃんのところに戻るとたくさんのお団子が追加で届いていた。
「慌てずゆっくり食べていていいから」
この町は大変な状況だし、俺自身も予定が狂ってしまったけれど、慌てて団子を口につめようとする神無ちゃんについついにやけてしまった。




