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2-8

「で、なんで操られもせず捕まっていたの?」

 街をでてしばらくしたところの小川の近くで休憩しながら渡来に尋ねる。姿を擬態されていたこと、逃走中にはぐれてからしばらく見かけなかったこと、おそらく憑依されていると思っていた渡来は、町外れの脇道に縛られて転がされていた。幸い、偽物の渡来を教えてくれた少年がそこまでつけていてくれたため、纏が死んだ後は監視者もなく無事解放はできたが、普通に捕まっていたのを知った時は驚いた。

 人間を操ることができる纏に捕まったのなら憑依されて手駒にされない理由がない。その姿に化けているから私の目の前に操られた渡来とともに出るわけにはいかなかっただけだと思っていたけど、そもそも操られてすらいなかったというのはどういうことなのよ。


「なんか相性が悪かったらしいよ」

「はぁ?」

 あまりにふざけた理由に冗談かと睨みつけるが、渡来の目は嘘をついているようには見えなかった。


「よく分からない魔法陣みたいなのが俺の周りに出てきてこれやばいんじゃないの、とか思っていたら何も起きなくてさ。神様も首をかしげていたよ。しばらくして諦めたかと思ったら俺の姿になって監視だけ残してどっか行っちゃったけどさ」

 渡来自身も本気で困ったような顔をしているし、彼の言うことを信じるのなら当事者の纏にすら原因不明なものを追及しても仕方ない。ってか魔法陣って憑依する時そんなに出すの、あの神は。


「まあ無事だったのはよかった」

 半ば無理やりついてこられた形ではあるけれど、何度か助けられているしあそこで死なれていたら目覚めが悪かった。


「本当になあ。それにしてもあの少年もよかったな。次はこんなことにならないだろう」

 反杉たちはなんらかのコネがあるらしく他の町へ話を通し復興を手伝ってくれるらしい。そしてよそ者である少年とその父親を含めた何人かは、反杉の伝手でそのうちの一つに移住するとも聞いた。


「あのおじさん、何者なんだろう。紹介先もそんなに多くない神が支配していない地域ばかりらしいし」

「気になるんだったら一緒に行ってもよかったんじゃないのか?」

 移住の話が出た際、反杉から私たちに彼らの旅に同行しないかという誘いがあった。そうでないにしても望むのならば他の移住者同様に引っ越し先を紹介してもいいと。


「私はあまり1つのところに残らない方がいいし、あまり他の人と一緒に居続けない方がいいから。勝手についてくるようなやつならともかく」

 あまり周知されてないようだけれども、神殺しという私の存在は一歩間違えればいろいろな危険を招き寄せる恐れがある。そして私自身もそういったことを避けるよりも自分から踏み込んでいく、というより衝動任せに事件を引き起こしていることが多々ある性格だ。実際焔の時には誰に望まれることなく手を出し彼女の御付の少女から恨みを買った結果をもたらし、この街も一部崩壊に追いやってしまった。巻き込む人は少ない方がいい。

 


「別にそんなにきつ苦しく考えなくていいんだけどな。何にせよ俺は勝手についていくけど」

 ちょっとだけ付け加えてみた皮肉は軽く受け止められ、続けて質問される。


「で、あの町に行ってどうだった?」

 反杉達の当たり前じゃない当たり前の行い、少年の勇気。あの街にあった偽物の善行には気持ち悪さすら感じたけれど、そこで体験したものは少しだけ私の人間に対する嫌悪感を拭ってくれた。


 特に


―ありがとう―


 元に戻った父親を抱きしめた後、笑顔で私に向けられた少年の言葉。それはいつも憎しみをはじめとした負の感情ばかり向けられてきて、人間が嫌いな私を少しだけ救ってくれた。


 だけどよかったと口にするのは少しだけ癪だな。そんなこと言ったら調子に乗るだろうし。この一言で十分だ。


「疲れたよ」

 今夜はいい夢が見られるかもしれない。そんな疲れだ。


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