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2-2

 顔の赤さをごまかすのも兼ねて宿から飛び出してきた私は、気持ち悪さを感じる親切にも向き合いたくなくて人通りのない裏道を歩いていた。


 優しさには裏がある方が多い。そんなことはとっくの昔に知っている。だからこの町の真実を聞いたところで違和感の理由が分かった以上のものはない。お菓子を取られた恨み以外は。


 そのはずだけど


「やっぱり信じてみたかったよ」

 期待していたんだ。人間がいいものだって少しでも思えることを。


「どうしてあいつは私をこんな街に連れてきたんだろう」

 人のいいところを見せると言ったのに結局そのいいところを再否定されただけだった。こんなもの見たくなかった。


 もしかしたら私を絶望させるため? でもそれならそもそも出会ったときに私を助けなくてよかったはずだ。


 そんな考えに気を取られていたのと、強制されたものとはいえ親切にあふれたこの町に気持ちが緩んでいたのだろう。


「あうっ……っ! 待ちなさいっ!」

 すれ違う少年とぶつかった、その直後に少年が走り出した。そう思ったときには遅かった。身に着けていた財布が奪われていた。咄嗟に叫ぶもすぐに諦める。

追いつくことはできるだろう。けれども人間相手に攻撃すらできない私一人では取り戻すことすらできない。幸か不幸か出かける時には大した金額を持ち歩いていない。この町で貰ったものを買ったと思えばあきらめきれる範囲だろう。


むしろまた見たくない人の負の面を見てしまったという感情のが強い。


「盗みはよくねえなあ。坊主!」

 しかし、私の財布を奪った少年はその先にいたがたいのいい男に捕まっていた。


「離せよ!」

「おいおい、悪いことしといてその態度はないだろうよ。ほいよ、嬢ちゃん」

 男は少年から取り戻した財布を投げつけてくる。捕まった少年は暴れるものの、短く刈り上げた髪型の、さばさばとした雰囲気の男はものともしない。


「どうも。助かったよ」

「んにゃ、当然のことをしたまでだ。んで、嬢ちゃんが望むのならこいつは俺が役人にでも突き出しておくけどどうするよ?」

 軽く礼を言いつつも、親切には裏があるということを改めて感じたばかりなこともありまた何か続くんじゃないかと警戒する。が、続いた言葉はがさつそうな雰囲気とは真逆の極めて事務的な内容、少年をどうするかということだった。


「いえ。別に財布が戻ってきた以上はいいよ。私も不注意だったし」

「そっか、なら――」

反杉そりすぎさん!」

 男が更に続けようとしたところで呼び声がかかる。どうやら男を探してきたらしい。眼鏡をかけた知的な雰囲気の美人が息を切らして走ってきた。


「どうした? 初芽はつめ

「どうしたじゃないですよ! もうすぐ約束の時間だったのにうろうろふらつかないでください!」

「ああそうだった悪い悪い」

 一切悪そうな素振りを見せずに反杉と呼ばれた男は謝る。が、反省はしていなくて自分を探しに来た女性を怒らせる気はないらしい。初芽に対してちょっとだけと伝えてこちらに向き合う。


「そういうことみたいだ。あんたらを家まで送っておいてやろうと思ったけどそれもできなそうだし気をつけて帰れよ。突き出さないのはいいけど面倒くさがらずに軽く説教くらいはしといてやれよ。悪いことして、はい、いいよってのはそいつのためにならん」

「それでは失礼いたします。もし反杉が迷惑をかけたのでしたら申し訳ありません」

「今回は迷惑かけるようなことはしてねえよ!」

 そのままちょっとした掛け合いを続けながらも二人は路地裏から立ち去って行った。


「さて」

 完全に二人が遠ざかったのを見てから少年に向き合う。


「なんだよ! もう返したんだからいいだろ! ってなんだよそれ!?」

 使い勝手がよかったので渡来から譲り受けておいたナイフを取り出し少年の方につき向ける。それを見た少年は怯えと困惑を見せ後ずさるがすぐに詰め寄り、逃がさないという意思表示を見せる。


「人のものを盗んでおいて、はいさよならで済むと思っているの? 一緒に来てもらうよ。次逃げたらどうなるかは分かるよね?」

 当然これはハッタリでしかない。けれども私が彼を傷つけられないことを知らない以上、その脅しは十分な効力を持っている。


「わ、分かったよ」

 本当のことを言えば盗まれたこと自体はそこまで気にしていない。イラついているときにやられたから若干怖い思いをさせてやろうなんて思ってない、多分。きっと、もしかしたら。メイビー。

 ただ、この偽りの善行の町で窃盗という悪事を行った少年には聞いておきたいことがあった。


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