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迂闊! そりゃ、上がバカなんだから下もバカだよな……
兵士2人のアシストにより、俺の立てた綿密な作戦はしょっぱなから失敗に終わった。これはヤバイ、進むも退くも出来なくなったぞ。
「一気に大人数相手になんか出来るか! このまま屋敷に突っ込め!!」
兵士2人が見張りの賊を叩き斬っていたが、「敵襲だ!」と叫んだ後だ。間違いなく手遅れだろう。それなら外で戦うより屋敷の中に入ったほうがまだマシだ。
「やはり突撃とは戦の華。タナカ殿にもこの心の昂り伝わったようで何よりです」
うるせえ、馬鹿野郎。
入口を抜けるとすぐ吹き抜けのロビーに出た。日の光がそれほど入らず屋敷の中は薄暗い。内部の詳細は、はっきりとはわからないが正面に左右に2階へと続く階段が見える。そこから3人の賊がこちらに向かって降りて来ている。一所にじっとしているのはマズイな……
「とにかく全員離れるな! 俺を中心に四方を固めろ!」
戦闘能力のない俺が先頭にいても邪魔なだけだしな。と言うかこの状況はほぼお前らの責任だぞ、率先して戦えバカどもが!
「まず右の階段の奥、あの廊下に向かうぞ!」
最悪囲まれたとしても細長い廊下じゃ1、2人ぐらいしかまともに戦えないだろ? それなら4人で十分に対応出来るって寸法だ。
出来ることならさらわれた奴等の捜索もしたいとこだが、そんな余裕はなんかない。廊下の右側にいくつか扉があるが開けて部屋の中に敵がいようもんならたまったもんじゃないしな。とにかくこのままやり過ごして、恐らくあるであろう裏手の出入り口に期待するしかない。
3人の賊に追われながら廊下を進むが、案の定奥から賊が2人姿を現した。最悪、ポイントの増加は痛いが死ぬよりはマシか、俺も手を出すしかないな……
「タナカ殿、ここで迎え撃ちますか?」
「それしかないよなぁ……」
「ほwwwうwwwいwww」
「せwwwんwwwめwwwつwww」
どうした? 親に緊張感を持たせて産んでもらえなかったのか?
――まあ、そりゃそうだよな。相手が近接武器しか持ってないのにバカ正直に同じ土俵で応戦しないよな。前から現れた賊2人の向こうに弓と槍を構えた賊が3人見える。後ろから追って来た奴等もすぐそこだ。完全に詰んでんじゃん。
「さあ、かかってこい!」
お前らといると自分が世界一賢い人間だと錯覚するな。
普通に考えて勝ち目のない戦いなんかやってられるか。右手に見える一番近くの扉を開け、部屋に逃げ込む。これで中に敵がいたら即試合終了だ、慌てる時間はとうに過ぎたわ!
「タナカ殿! 敵に背を向けるとは騎士にあるまじき行為です!」
叩き出すぞ、クソバカ。そもそも俺は騎士じゃねえ。
運が良いのか悪いのかはわからないが、部屋の中に人影は見当たらない。それに何だここ、物置か? 部屋の中には色々な物が積み重なっている。だが武器らしき物は見当たらず、それこそ事態が改善されるような物はない。
扉を外から叩く音も怒鳴り声も除々に大きくなり、軋む振れ幅も広がり始める。バカ2人が懸命に抑えているが、壊れるのは時間の問題だな。そんな切羽詰った状況の俺に1つの物が目に入る。
「やけにゴツイ鎧だな、何だコレ?」
「ああ、それは馬上槍試合用の甲冑ですね」
兵士の話によれば馬術が発展した草原の国らしく騎士による馬上試合が行われている。あくまで試合である為に木製の槍を使用するが危険は付き纏い、更には落馬による怪我も頻繁に起こる。そこで試合用の甲冑が作られたそうだ。
この甲冑は身体を守ることをメインに作られ、関節部位も防護されており実戦用のそれより厚みもある。おかげで重量はかさ張り、駆動域は狭められ、落馬すれば1人で起き上がることは不可能な代物となった。
「すごい俺向きの鎧だな」
重さは関係ないし、動きにくくても攻撃しないから問題ないし、馬にも乗らない。何より見た目がいい。鈍く光る鉄の光沢がニュータイプとしての俺の厨二魂を震わす。ちなみに俺はガンダムはZZまでしか認めない。異論も許さない。
――3、2、1
さきほどから扉を叩いていた賊は急に扉を開けられたことに力の行き場を失い、前のめりに部屋の中へ転がり込んだ。
何が起こったのか理解出来ないまま兵士によって首に剣を突き立てられ絶命する賊。それを飛び越え部屋の外に躍り出る。巨大すのこを前に構え廊下の奥に向かい突進する。自分の体重+甲冑の重量+すのこの重量、約150キロほどの重量に推進力が加わる。
未だにパニックに陥り浮き足立った状態の賊にこの突進を止める術はなく、逸早く状況を理解した賊が放った矢も甲冑を貫くことが出来ない。
後ろから迫って来た賊は兵士達に討たれ、押し戻されていた賊は俺の影に隠れるトーマスとミシェランに討たれる。前後を入れ替わって戦う内に廊下には約半数、10人以上の賊の死体が転がっていた。