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結果から言えば、賊の拠点はそれほど時間をかけることもなく見つかった。名も知らぬ2人の兵士が有能すぎるのだ。
街道から少し外れた森の中に、今は使われていない貴族の古い屋敷がある。先程の斥候から話を聞いていた2人は初めから目星をつけていたらしく、迅速に動き回って調査をしている。だが俺を含めた3人の役立たずも何もしていないワケじゃない。
俺は森には入らず、勝手に持ってきた物資で自分の身を守る為の盾作り、バカ2人は「アイエエエエ! ニンジャ!? ナンデニンジャ!?」と叫び声が聞こえてきたからニンジャスレイヤーごっこでもしているんだろう。敵に見つかるので叫ばないでもらいたいんだが。時折り、城の方角から矢が飛んでくるのでレンゲの悪口も言っているはずだ。
恐らく砦の補強に使う予定であっただろう木材を組み合わせ、釘を打ち付けていく。完成したものは盾と呼ぶより巨大すのこ、もちろんDIYなどしたこともないので見栄えは最悪だ。しかしこんなモンでもないよりはマシか……
「タナカ殿、ある程度ですが敵の規模がわかりました」
「賊の数は約30人ほど、敗走兵から奪った武器を持つ者もおり、屋敷の中にはさらわれた難民も監禁されています。ご指示を」
「ご指示を」じゃねえよ何で俺に聞くんだ、あのバカ2人に聞けよ。というか、もうお前らが指示出せよ。
「戦闘力0の俺が言うのもなんだが、30対5とか絶対無理じゃん。城に帰って討伐隊組んだほうがよくね?」
「いえ、このままでは被害が増すばかりです。ここは一気に叩くのが得策かと」
「私も同意見です。30人であれば1人あたり6人かと。問題ありません」
え、問題ありませんって何が問題なのかわかってんのか? この国の兵士ってみんな脳筋なの? それともこの2人を有能と少しでも思った俺がバカなのか?
「よゆーですぅwww超よゆーですぅwww」
「ニンジャは最強でござるwww」
お前らには聞いてねえよ。
「では行きましょう!」
「行きましょうじゃねえ。お前らが勝手に死ぬのは別にいいが俺まで巻き込まれんだろが。どう行動するか少しは作戦を考えろ」
ともかく屋敷の立地状況の確認をする必要があるので不本意ながら森に入る。作戦名は『木をだいじに』だ。俺の人生ここまで木に気を使ったことはない。
森をそれほど奥深く進むこともなく目的の屋敷に辿り着く。あちこちに新しい踏みしだかれた草木を見つけることが出来るので、ある程度の人数が移動していることが窺える。そこそこ名のある貴族が所有していたのかそれなりに大きい屋敷で2階にはテラスも見えるが、長い間住居として使われていないのか建物は風化しており、周りの木々は留まることを知らず、鬱蒼と生い茂る。何にせよ身を隠す場所が多いのは好都合だ。
「まずは確実に達成すべき任務が2つある。1つはさらわれた奴等の救助だ。達成することにより俺のマイナスポイントが減り、安心の生活が約束される」
これは重要事項だ。がんばって-5000ぐらいにはしないと最大の敵が森という生活を一生続けていくことになる。
「2つ目は最重要事項だ。俺の身の安全、以上だ」
「かっけぇwwwタナカっちかっけぇwww」
「シビレるwwwあこがれるwww」
うるせえ、黙ってろ。
「次に作戦だが、お前らに聞いたところで突撃以外の案が出るとは思わない。だから俺が勝手に決める」
前回は交渉で何とかなったが、今度は状況が違う。こんなモン普通に考えたらただの無理ゲーだ。
「いいか? 敵は約30人、それほどの人数にもなればお互いの顔を完璧に理解しているかどうかも怪しい。それに30人が35人に増えたところで大差なんてないだろ? なら俺達のとれる作戦はただ1つ」
こういう場合はビクついているほうがかえって怪しまれる、堂々と正面から入って行けばいいんだ。屋敷に入ればこっちのモンだ、全員を一気に相手する必要はない。1人1人確実に始末していけばあっという間にヌルゲーの出来上がりだ。
「ウィース、おつかれー」
「おう、おつかれ」
ほら見ろ、所詮こいつらの脳ミソなんざ虫けら程度よ。おまけにバカ2人には絶対に口を開くなと言い聞かしてある。もちろん余計なことしかしゃべらないからだ。お前らが出来る行動は首を縦と横に振ることだけだ。本当に何でこんなバカが隊長やってんだろうな……
「何だお前ら、初めて見る顔だな。新入りか?」
「何をぬかすか! ゴロツキどもが!」
「我等は名誉ある草原の国騎士団だぞ!!」
そうきたか――