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「兵士に志願した動機は何だ?」
「えー、アタシはちょっとイヤだって言ったんだけどぉ、ちょっと友達がアタシに黙って勝手に応募しちゃってぇ、でもアタシもちょっとイケるかなぁみたいな感じでぇ」
「何が出来る?」
「えー、あんまし自信ないんだけどぉ、ちょっと写りには自信あるかなぁ、あ、上からね、上から」
「誰だ、こんなバカ連れてきたのは! つまみ出せ!!」
どうやら読モ系の物まねはお気に召さなかったようだ。
アッサムの村を出発してから3日後『草原の城』に辿り着いた。道中、素敵な出来事が待ち受けてると思っていたが何のことはない、ケツにダメージが蓄積されただけだった。
馬車で言葉を交わした兵士の紹介により騎士団本部へ案内された俺は、団長と呼ばれていた男と面談をする。兵士になることなど微塵も考えてなかったので適当に対応していたのだが、マジギレしてきそうなのでそろそろやめておこう。
「……で、異世界人。不思議な力を持ってると聞いたが見せてもらえるか?」
「マジで微妙な力だぞ? 何でも持てるってだけだ。流石にここの城持ち上げろって言われても無理だが」
「腕力が強いだけじゃないのか?」
「元いた世界なら一般人の中じゃ強いほうだったが、こっちじゃ弱いほうだな」
なみなみと水が入った樽を人差し指の上に乗せクルクル回す。もちろん俺を含めそこらじゅう水浸しだ。
「なるほど、奇襲作戦時や馬車の入れない場所などでは重宝するな。戦闘面でも工夫しだいでは強力な助けになる」
「ちなみに俺は森に入れないからな。木が弱点だ。そういう種族だと思ってくれ」
団長には善行ポイントについて説明しておくべきだな。これがなけりゃ俺つえーが出来るんだが……出来ねえな。そこまでゲーム脳じゃねえよ。
「ならば、戦時中の『王国』を救うこと、今、戦火に巻き込まれている人々を救うことでポイントは減算されるんじゃないか?」
俺の言葉をあっさり信用した団長の答えだが、そういう考え方もあるのか? うーん、直接助けないとダメそうな気がせんでもないが……けど、街の人間に「あなたは今、困っていませんか?」なんて聞いて回るのもなぁ。そんなこと出来んの胡散臭い宗教の勧誘と闇金ぐらいだしな。
「戦争に巻き込まれた人達ってのはわかるんだが、王国? たしか帝国と戦ってんだろ? 打算的な話だが戦争の片棒担いで俺に利があるとは思えんし、そもそも俺は戦いたくない」
「大義名分はこちらにある! 奴等は不可侵条約を破ったのだ!」
団長は乱雑に文字が書き込まれた地図を広げ、説明を始めた。さっきからずっと言うタイミングを逃してるんだが軍に入る気ないし、そろそろ帰りたいんだけど……
この世界は陸続きの2つの大きな大陸に別れている。わかりやすく言うなら人間の左右の肺のような形だ。
向かって右側が『帝国』、左の上から『山の国』『王国』その下に『草原の国』『泉の国』さらに下に『森林の国』に別れている。つまり『森林の国』だけは何があっても足を踏み入れるなってことだな。
「昔、『王国』と『帝国』の間で条約が結ばれた。我等がいる『草原の国』を含む4つの公国も『王国』に従った。だが奴等はそれを破り『山の国』へと攻め入ったのだ」
「あ、ごめん。お茶か何か貰える? のど渇いちった」
部屋に待機していた兵士から飲み物を貰う。このおっさん話長そうだな。
「急報を受けた『王国』は国王自ら10万の大軍を率い救援に向かったが、帝国軍の急襲に遭い敗走。国王はその戦で討死なされた」
どんだけアグレッシブな王様だよ。
「その勢いのまま帝国軍は『王国』の王都を含めた半分を占拠した。第一王位継承者である王子は『泉の国』まで落ち延び、今は帝国軍の南下を防ぐ為、『草原の国』『泉の国』が出兵し、王国領土内で対峙している」
「あんたは行かなくていいのか?」
「ああ、今は我が主ハルジオン公爵が出陣されている。ワシと公子は城の守りだ」
なるほど、村になかなか助けが来なかったのも単純に人手不足ということか。けど何この世界、血の気が多くないとトップになれないの?
部屋の外で急ぎ走る足音が聞こえ、扉をノックする音が響く。入室を促されると1人の兵士が駆け込んできた。
「ホオヅキ団長、ハルジオン公より伝達です。急ぎ増援と物資を送られよとのことです」
「わかった。直ちに向かう」
慌しくなった室内とは対称にのんびりと茶を啜る俺と団長の目が会う。
「異世界人、お主の名前は?」
「ハルジオン」
「それは我が主の名だ! この場で叩き斬られても文句は言わさんぞ!」
「田中一郎だ。気軽に『渇望のホテイエソ』とでも呼んでくれ」
「おい、そこのお前! このタナカに装備一式を与えよ。準備が出来たらワシの下に連れて来い」
「はっ! ではタナカ殿こちらへ……」
「いやいや、どう考えてもおかしいだろ? 戦わねえって言ってんだろ? バカなの? 死ねよ」
「タナカ、お主がどこまで出来るかこの目で確かめさせてもらうぞ」
え? ここまでの間のどこに信用足り得るものがあったの? そんな想いも通じず、マンガでしか見たことないような鎧を着させられ、剣を持たされるのだった。